第14話 お家でお留守番

 義孝が葵の誘いで家を出て行って数十分後。

 竜胆姉妹はベッドの上でお互い見つめあう形で正座をしている。

 その空気は重く、未来はそわそわと視線を部屋中にさまよわせていた。


「はぁ、未来ちゃん。ちょっとは落ち着きなよ。情緒不安定すぎでしょ」


「お姉ちゃんはよく落ち着いてられるね……私たちのお父さんが、お、女の人に誘われて出て行ったんだよ? それもお父さん1人に対して女性がふたりだっていうじゃないですか? これは由々しき事態です」


「そりゃ、パパだって大人なんだから、デートの1つでもするでしょ」


「ずるいです。お父さんとデートなら私がしたいのに……ずるい。ずるい。ずるい。ずるい。ずるい。ずるい。ずるい。ずるい。ずるい。ずるい。ずるい。ずるい」


 無表情で目の色彩を消して、ヤンデレのように呟く未来。

 そんな妹の表情に実花は内心ため息をつく。


(パパはセックスもしてるかもしれない……とはさすがに言わない方がいいよね。ふぅ……愛が重いなぁ。まあ、それが世界最強に超可愛いところでもあるんだけど。はぁ、パパがこのことに気が付いてないのは問題だよね……たぶん「頭のいい女子高生」くらいにしか、思ってないだろうなぁ……本当に鈍感)


 実花自身も父親のことは大好きだ。母親の影響でずっと、ずっと会いたかった人だ。それは実際出会ったことにより、憧れを通り越して自分の中で好意や愛情になっているのは自覚がある。


(もちろんパパ愛では未来ちゃんに負けてないと思うけど、未来ちゃんの愛は私の愛よりもねばっこいというか粘着質というか……今も私が止めていなければパパのこと追いかけたと思うし)


「ずるい。ずるい。ずるい。ずるい。とてもずるい。すごくずるい。私だってお父さんと一緒にいたいのに。お話したい。触れ合いたい。撫でられたい」


 実花としても可愛い可愛い妹が警察にご厄介になるのは避けたいが……妹をこのままにしておけないのも事実だ。


(このままだと胃に穴をあけそうだしね……)


「そんなに心配ならふたりで追いかけてみる……? ふたりなら言い訳もそれなりに通ると思うし」


「……いえ、それはやめておきます」


「えっ? いいの? 未来ちゃんのことだから大喜びで乗ってくると思ったんだけど……なんなら、夢ちゃんたちを邪眼の炎で焼くかと。黒竜波的なもので」


「……お姉ちゃんは私のことをどう思ってるんですか?」


「ストーカーでヤンデレで一歩間違えば法に触れる超可愛い妹」


「ふんっ、お姉ちゃんなんか嫌いです」


「あーあ、ごめん、ごめん♪」


 実花が笑顔で言うと、未来はいじげた態度を改めて、寂しそうな笑みを浮かべる。


「私はお父さんに迷惑はかけたくありません。お父さんが「留守番してろ」というのなら大人しく待ってます。お父さんに嫌われるのは絶対に嫌ですから」


(未来ちゃん超健気だなぁ……妹じゃなかったら襲ってるかも)


「まあまあ! そんなに思いつめなくても私たちは娘なんだから、パパはどこにも行かないって」


「ほ、本当にそう思う?」


「うん! そのためにお爺ちゃんにお願いしてパパの『就職先』を内緒で用意してもらったんでしょ?」


「えっ? お、お姉ちゃん知ってたの?」


「お姉ちゃんは妹のことならなんでも知ってるのだよ」


「……私にできるのはここまでです。『決める』のはお父さんだから……」


 未来は実花と話して元気を取り戻したのか優しく笑う。その笑顔からは家族のことを大切に思っているのが伝わってきた。実花はそんな未来の頭をそっと撫でた。

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