第8話 第1回家族会議(2)
「それでお父さんは私たちを恋人にするんですか? しないんですか?」
「する訳ねぇだろ……」
「まだ、二股なんていうことを気にしてるんですか? そんなの別に法では裁けません。何も問題ないです」
「いや、法で裁けなくても世間体っていうのがあるだろ?」
「くだらないです。それは私たちが一緒に暮らすこと以上に大切なものですか?」
第1回家族会議は平行線をたどっていた……。
もっと他にも話し合うことは山ほどある気がするのだが……。
……美奈に似て姉が頭おかしいのはわかっていたけど、妹も相当ぶっ飛んだ感性をお持ちだ。
見た目と言動がなまじ優等生風だから言葉の破壊力が凄まじい。
さすがは俺と美奈の子だ……。
「まあまあ、パパ。考えてみてよ。私たちを恋人にすればエッチなことしたい放題だよ? パパが妄想していたことが現実に――」
「お前は黙ってろや」
「お姉ちゃんは黙ってて」
「うぅ、こういう時は息ピッタリだね……さすが親子。場を和ませようとしただけなのに……実花ショック」
いじけんなや。はぁ、このままではらちがあかん……。
ひとまず話をまとめよう……。
「お前らの要求は『俺と暮らしたい』ということでいいのか?」
「ええ、そうです。私たちは家族ですから」
「私も私も! 3人で仲良く暮らしたいよねぇ~」
「だから、お父さんにメリットを提示しているんです。その……私たちを恋人にすれば……その、わざわざ、風俗に行く必要もないですし……」
「待て! なんで風俗通いがばれてやがる!」
「あっ、私が未来ちゃんにメールで教えた。パパ、風俗店のポイントカード、玄関に置かない方がいいよ?」
「うっせえよ! この上ない余計なお世話だよっ!」
仕事で疲れて睡眠時間を削って自分の金で行ってたんだ! 誰にも文句言われる筋合いはねぇだろっ!
「痴漢電車、痴漢忍者屋敷……そういうお店もあるんですね……うわ……どれだけ痴漢が好きなんですか……」
「ポイントカードを見て普通にひいてるんじゃねぇ!」
「いいんじゃない? 男の人はそういうものだってママ言ってたし。なんならパパは性欲旺盛らしいし」
「あいつホント娘になに教えてんの!?」
「性欲旺盛ですか……がんばります……」
何をだよ!
駄目だ。このままじゃ話が進まん。というか実際『魅力的な提案』なのは事実だ。
…………。
いや、違うよ? 別にこの提案を受けるわけじゃないよ?
でもさぁ、性格はともかくとしてアイドル級の容姿のふたりが俺の恋人になるって言ってるんだよ?
男なら一度は夢見るじゃん。心揺れて当然だろ……。
むしろそれを断ろうとしている俺の精神力を褒めて欲しい。
はぁ……これは俺も腹を決める時だな……。
「まず、お前らは前提を間違えてる。なんで俺にメリットを提示してるんだよ」
「えっ?」
「パパ、エッチなこと嫌いだっけ?」
「そんな訳ねぇだろ。大好きだ」
「うわぁ……やっぱりそうなんですか……そうですか」
妹、いちいち無表情でドン引きするのやめて貰えないでしょうか?
「とにかく、親子として暮らしたいなら、好きなだけここに居ればいい。家族っていうのはそういものだろ?」
「……」
「……」
「何をふたり揃って驚いた顔をしてやがる。当たり前のことだ」
最初から俺はこのふたりを見捨てるつもりはない。
それはDNA鑑定の結果が出た時に決めていた。まあ、いきなりひとり増えた時は想定外過ぎたが……。
まあ、いけるだろ……こんぐらい楽観してないと、こいつらの親はやれないだろう。
「で、でも娘だとエッチなことできないですよ……? それだとお父さんにメリットがない」
「お前はどれだけ俺が下半身で動く人間だと思ってるんだよ……それに何がメリットだよ。ガキが小難しいこと言うんじゃねぇ」
「未来ちゃん。それはちがうよ。べつに娘でもエッチなことすればいいじゃん」
「それは違うだろ……普通に事案だわ」
どれだけエッチに拘るんだよ……。
本当に襲っちまうぞこらっ。
「それで? お前らどうするんだ? 正直、あまり贅沢はさせられないぞ? ……俺、仕事の引継ぎを終えたら無職だし……」
そう言うと、ふたりは苦笑いをしてお互いの顔を見た。
「ねっ、パパは私の言った通りすごい人でしょ?」
「はい……、まさか15年会っていなかった娘を受け入れるなんて……お父さんって、馬鹿ですね……」
「ああ、なんて言ったってお前らの父親だからな」
「ふふっ、そうですね……私たちは親子で馬鹿です」
初めて未来が俺の前で笑顔を見せた。
それは見ていて気持ちのいい笑顔で、16年前に見た美奈の無邪気な笑みと似ている気がした……。
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