第7話 第1回家族会議(1)


「家族会議です」

 

 俺は堂々と娘たちの前で宣言する。

 夢野さんは会社という夢の国に行ったので、今この部屋にいるのは俺と娘ふたりだ。


 ぶっちゃけ、さっきのできごとのせいで逃げ出したい気持ちでいっぱいだったりする。

 人として最悪ことを考えてる気もするが……これが普通だろ。いきなり美少女ふたりの父親とか2次元の世界だ。

 俺はいつから3次元と2次元の区別がつかなくなったのだろうか……。


「未来ちゃん、未来ちゃん、なにを話し合うのかな?」


「さあ、話し合うことが多すぎて、逆にわからないわ」


 姉妹の反応は両極端だ。姉の方はもう「わくわくが止まらないぜ! やふっー」って感じだが、妹の方はすまし顔で「騒がしいのは嫌いのだけど、ふんっ」みたいな部外者面をしている。


「まあ、とにかく書類上は娘であることは確認したけど、念の為に確認させてくれ。お前たちは『美奈』の娘で間違いないんだな」


「はい、間違いないです。お父さん」


 やっぱりか……。

 言われれば双子は美奈に似ている気がする……16年前の記憶だからぼんやりとだけど……。

 『美奈』。それは俺の初体験の人の名前だ。

 苗字は知らない。16年前に街で知り合い、それから妙な縁が続いた間柄だ。

 そして――。


「俺は16年間あいつとは会ってない。それに……その……いや、お前たちに聞くのは違うか……」

 

『避妊はしっかりしたんだけど』と、女子校生に聞くことはさすがの俺もしない。

 一発でセクハラで捕まるわ。


(母親のことだし、この年代には刺激が強すぎるだろう……)


 と、紳士的なことを考えていると姉の方が悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 あっ、嫌な予感がする……まるで16年前の美奈の笑顔のようだ……。


「ママ、避妊具に細工をして、中出しさせたんだって」


「はああああああああああああああああああああああ!?」


 俺の気遣いを返せや!

 いやそんなことじゃねぇ! マジか全然気が付かなかったぞ!

 ていうか何が目的なんだ!


「パパ、童貞でがっついてたから、細工するのは簡単だったって言ってたよ?」


 あいつコロス。娘になんていうことを教えてるんだ。

 待てよ……これはこの馬鹿姉が勝手に言ってるだけじゃないか? 事実だとしたらあまりにも非常識すぎる。

 俺は一類の希望を抱いて妹を見た。


「事実です」


 そんな俺の視線で察した姉は、優雅にコーヒーカップを手に取りクールに答えた。

 その高そうなコーヒーカップはどこで用意したんだよ……。

 もうだめだ。おしまいだ。これも全部美奈が悪い。子供ができたんなら連絡してこいや……。


「おい、今すぐ美奈を呼んで……」


 そこまで言って気が付いた。なぜこのタイミング、16年も経って娘たちが訪ねてきた?

 親が一緒にじゃなくて、子供だけで来た?

 それは……『親が来れない』からじゃないのか?


 その証拠に今まで笑顔で騒ぎ立てていた姉が急に俯き、空気が重くなったように感じた。

 そうか……。あいつは……はぁ、16年か……。


「一応言っておきます……」


 考えにふけっていると、妹がコーヒーカップを置き俺のことを見据える。

 その顔からはさっきまでの部外者みたいな空気は消えていた。


「未来ちゃん……?」


「いい、お姉ちゃん、私から言う。お父さん、貴方には私たちの面倒を見る義理はありません……それはお母さんもわかっていました。だから、この16年間会わなかったそうです」


「そうか……」


 安堵の気持ち……それを感じる自分に罪悪感があった。

 でも安堵の気持ちは普通だろう。そんな騙されるようなことをされたのに『いきなり子供がいます。育

てて下さい』と、言われても正直困る。

 でも……なんだこの罪悪感は……。


「それで……その……」


 ん? いきなり妹の顔が赤くなったな。

 今すげぇー大事な話をしてる気がするんだけど……嫌な予感がする。


「お父さんは……私たちを恋人にしませんか?」


「馬鹿じゃねえの?」


 頬を赤らめて告白するJKについ本音が出てしまった。

 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。


「待て妹よ。お前は美奈や姉と比べて真面目人間だと思っていたが、それは間違いだったのか?」


「わ、私だってこんなこと、非常識だってわかっています。でもこれが一緒に居られる合理的な方法なのも間違いなんです。私たちは『戸籍上は他人』なんですから、それと私は妹なんていう名前ではありません。未来です」


 まだ恥ずかしいのか、無表情なのに頬は赤い。


「いや、それにしたって他に方法があるだろっ! どこの世界に娘を恋人にする父親がいるんだよ」


「私だって正直狂ってると思います。でも、それがお母さんの遺言なんです」


「はぁ!? スゲェー遺言だな!」


 美奈、出会った時からむちゃくちゃな言動をする奴だったけど、何も変わってなかったんだな……。


「まあまあ、未来ちゃんもパパも落ち着きたまえ」


 何を偉そうに仲裁に入ってやがる。お前も当事者だろうが。


「これはパパのための提案だよ? だって恋人でもない美少女と一緒に住むなんて、世間の目が怖いでしょ?」


「JKと付き合ってる方が世間の目が怖い」


「いいじゃん。いいじゃん。そんなこと。ハーレムだよ! ここはパパのハーレム!」


「妄想を垂れ流すんじゃねぇ! たくっ、娘は恋愛対象に入らないだろ!」


「パパ、本心は? 私たちを性的な目で見れない?」


「……」


「うわ……なんですか? その間は……お父さんって変な性癖あるんですか?」


「いや……待て。普通そうだろう。いきなり娘だと言われても16年間会っていなかった美少女がよりそってきて「娘だから興奮しない」。そんな男はいない」


 人によってはそういうことを口にする男はいるかもしれないが、100パーセント『娘』と割り切ることはできないだろう。


 でも人間は理性で生きる生き物だ。この要求をすんなり受けることはできない。

 ……だって、受けたら人間として終わりな気がするし。


「なら、決まりだね♪」


「いや、決まりじゃねえよ。それに仮に恋人にするとしても、お前ら二人じゃねぇか?」


「それは問題ないです。私もお姉ちゃんもその辺は納得していますから」


「おい、俺に二股しろっていうのか?」


「お父さん、二股のなにがいけないんですか?」


「……」


 こいつは頭のよさそうな面構えをして何を言っているのだろうか……?

 はぁ、この家族会議は長くなりそうだな……。

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