第6話 娘現る(6)
数日後の夕方。
「……」
「……」
「……」
俺の家の中央に置いてある机を囲んで、俺、夢野さん、娘を名乗る何かの3人は神妙な面持ちで正座をしていた。
机の上には一枚の封書が置かれている。
いつもの俺なら女性が自室にいることに興奮しまくり、わざと分かり易い位置にAVを配置して、夢野さんの反応を楽しむところだが……今はそんな余裕はない。
「パパ、ついにDNA鑑定の結果が来たね……」
「ふん、別に結果は決まってるんだから、気軽に見ようぜ」
そうだ。そこまで気にすることでもない。いきなり来た美少女が娘なんていうことはありえない。ふん、性格はあれだが、こいつは顔はアイドル並みだ。俺のDNAなんて一ミリも入っていないだろう。
うんうん。そうそう。もし違ったらその場でナンパでもしてやろう。
「さあ、開けるぞ……」
封書をあけて、便箋を取り出す。そして高鳴る鼓動を無視して中の書類を見ると――。
「……専門用語が多くて何がなんだかわからん……夢野さん、代わりに見て貰ってもいいですか?」
実は夢野さんにはこんな時のために来てもらっている。お隣さんに見せる書類ではないと思うが、素人の俺が書類を見るより現役看護師に見て貰う方が確実だろう。
はぁ、最近迷惑かけてるから、なんかお礼しないとな。
「えっ、わたしですか……? プライバシーな書類なのにい、いいんですか?」
「ええ。夢野さんなら信頼できるので。2年お隣さんやってるんで」
本格的に話すようになったのは数日前だけど。まあ、社畜に悪い奴はいないというし、大丈夫だろう。
「し、信頼……そうですか……そうですか」
夢野さんは妙に上機嫌で書類を受け取った。
そして、その様子をを見ていたパリビが顔を耳元に寄せて声をかけて来る。
やめい、ドキドキするじゃねぇか。
「パパって、けっこうモテるの?」
「なんだ急に、俺はモテた記憶はねぇぞ。10年以上仕事が恋人だ」
「へぇ、ならママを除くと素人童貞なの!?」
「お前言葉に気を付けろよ! 泣くぞ。大の大人が大泣きするぞ!」
「それ動画投稿サイトに上げてもいい?」
鬼か。
「だいたい俺の初体験の相手がお前の母親だと決まった訳じゃ――。」
ピンポーン。
言い争っていると突然チャイムがなる。
なんだ? 客は……ないか。俺は友達はいないし。世の中は無情だ。頑張って働いているのに、休みがないという理由だけで友達が減っていく。
孤独感だけが友達。
ピンポーン
「パパ出なくてもいいの? なんなら私が出ようか?」
「何がなんならだよ。いい俺が出る」
めんどくさい気持ちになりながらも、立ち上がる。
どうせ新聞の勧誘とかだろう。さっさと断ってしまおう。
ピンポーン。
「はいはい。今出ますよ――」
ガチャ。
何も考えずに扉を開ける。
すると――。
「初めまして、お父さん」
思考が止まる。扉を開けると自称娘の実花と『同じ顔の子』が不機嫌そうな表情で立っていた。
服装は初めて見る紺色のブレザータイプの制服で、清楚な感じがする……。
「……って、なに瞬間移動でも覚えたの?」
そんな期待を込めて、後ろを振り返る……。
だが、自称娘様は「あはは……」っと、苦笑いを浮かべている。
「お前分身の術でも使えるの?」
「いや……えっと、実は……」
「『お姉ちゃん』。自分の自己紹介ぐらい自分でするから。初めましてお父さん。私は未来(みき)、そこの実花の双子の妹です」
ニコリともしないで事務的に言う。
待て……ひとつだけ言いたい。本当にひとつだけ。
「はあああああああああああああああああ!? お前双子なの!?」
「パパ近所迷惑だよ?」
うっせえよ。
「え、えっと結果が出てからそれも言おうとしたんだけど……てへぺろ」
「お前ふざけんなよ! ただでさえクソめんどうくさい状況なのにひとり増えただと!? いや待て……まだ結果が出たわけじゃない! もし違うならお前らが双子でも5つ子でも俺には関係ない!」
「親子ですね」
書類を見ていた夢野さんがぽつりと呟く。
「えっ……?」
「書類を見る限り、実花ちゃんと川島さんは間違いなく親子関係です。おめでとうございます」
晴れやかに言う夢野さん。この人何言ってるんだろう。言っちゃなんだけどこの人も馬鹿なんじゃないだろうか。
「パパ、これからよろしくね♪」
「よろしくお願いします。お父さん」
「ん? あ、あれ? 実花ちゃんがもうひとりいるんですか?」
「……か、勘弁してくれ」
ここで俺の人生は決定的に変わった。
数日前まで社畜サラリーマンだった俺は、リアルJKそれも双子の子持ちなったのだった……。
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