第4話 娘現る(4)

 突如として始まった食事と言う名の飲み会。

 この会の目的は1つ。

 いきなり『俺の娘』を名乗るハッタリ少女を黙らせる事である。


 もうぐうの音も出ないぐらいに徹底的に言い負かし、年長者として説教の1つでもして、この件は円満解決。俺は晴れ晴れとした気持ちで明日ハローワークに行く。

 そう思っていた。


 だが――数時間後。


「ぎゃははは、夢野さんってめっちゃ食べるんですね! それどんぶり飯5杯目ですよね?」


「ふふっ、そうなんです~。その辺の男の子には負けませんよ? あっ、お酒も飲みますよ? ふふふっ、そうだ。川島さんもいっぱい飲むみたいだから、隠していた秘蔵のバーボンも空けちゃいましょう!」


「いいですね。俺ストレートで!」


「わたしもそうします!」


「もうっ! 夢ちゃんもパパも飲み過ぎだよ!」


 オオカミ少女から事情を聞くつもりが、すっかりと酔っぱらっていた。

 もう、警戒していた娘(笑)に怒られるほどの泥酔っぷりだ……。

 いや~、日頃のうっぷんって怖い。気が付いたら、はっちゃけていた……これも夢野さんが用意してくれた料理や酒が絶品なのがいけない。


 特に料理は店で食べるのと変わらないレベルで、これをひとりで手作りしたというのだから、ハイスペックな美人だ。


 それに冷静に考えたら、今俺は美女二人と酒を飲んでいるのだ……これではしゃがない男は、俺は男として認めない……。

 と、いうのは言い訳として通じるだろうか……。


 まあどうせ、自称娘は、新手の詐欺か、家出少女が適当な理由をでっち上げているだけだろう。

 それか妄想か勘違い。

 はぁ、実際俺に娘にをつくる甲斐性があればとっくに結婚してるっての。

 

「そんなにモテないんだよなぁ。俺」


「ん? パパどうしたの?」


「はぁ、仮にお前が俺の娘なら、母親はすごい美人だろ? そんな美人とお近づきになったことねぇよ」


「美人なんて嫌だなぁ~。パパもぅ~」


「うっせぇ、照れんな。それで? 本当の目的はどうなんだ? 金ならそんなにないぞ? 詐欺に掛けるつもりなら……」


「詐欺じゃないもん! 私はパパの娘だもん……」


「そんなこと言われてもな……美少女がいきなりやってきて「私はあなたの娘なんです」という言い分を信じる方がどうかしてるだろ」


「むぅ~」


 俺と詐欺師が言い合っていると、お酒の所為で頬を赤らめている夢野さんが小さく手を上げた。

 なんか妙にエロい……。


「あのー、事情はよく分かりませんけど、それならDNA鑑定をしたらどうですか?」


「DNA鑑定? よくドラマとかに出てくる?」


「ええ、今は一般の方でも簡単にできますし、早ければ3日程で結果が出るみたいですから」


 さすが看護師。そういうのには詳しいな……。


 うーん、このペテン師も引く気はないみたいだし。それが一番早いかもな……どうせ明日は街に出る予定だったし。


「なら、そうしようか。おい、お前もそれでいいな」


「うん。なんか試されてるみたいでムカつくけど……」


「ふんっ、もしお前が本当に娘なら土下座でも、なんでもいうことを聞いてやるよ」


「えっ……それほんと!?」


 目を輝かせやがって、絶対そんなことはないし。

 

「ああ、娘だったらな……絶対にないけど」


「川島さん自信満々ですね……。心当たりはないんですか?」


「えっ?」


「えっと……だから、心当たりです」


 さらに顔を赤くする夢野さん。それは酔いの赤さとはまた違う物だ。そうなると俺の心の奥底に眠るドS心が目覚めてくる。


「いや、何のことかぜんぜんわからないです。具体的に教えて下さい」


「うわぁー、パパって鬼畜……と、思ったけど、夢ちゃんがエロ可愛いからもっとやって!」


 そのノリのよさ嫌いじゃない。

 ふたりでじーっと、夢野さんを見つめる……。


「えっと……その……だから」


 夢野さんはもじもじしながら、視線をさまよわせる。

 うん……やべぇ、見てるだけで楽しい。


「だから、そのせっく……す……です。もうっ! 何を言わせるんですか!」


『いえーい』


 親子(仮)は満足してハイタッチをする。

 なんという息の合い様……ほんのちょっとだけ、俺の娘と言うのを信じてやってもいい気分だ。


 だけど、肝心なセックスの経験なんて……まて。


「……おい。仮想娘、お前いくつだ」


「なにその新ワード……はぁ、15だよ?」


「な、何月生まれだ?」


「3月7日」


「……」


「ふふっ、今が6月だから……実花ちゃん、高校1年生なんだ」


「うん! パパにも今度制服姿を見せてあげるんだ!」


「それはパパも喜ぶと思うよ」


「本当!? ふふっ、楽しみだぁ」


 女ふたりで楽しく話している……だが、俺はそれどころじゃなかった……。

 時期は合う……いや、偶然だ。あの時はしっかり避妊もしてた。童貞だったこともあり、もうそれは厳重に。


 そうだ……偶然だ。

 そう言い聞かせて俺は夢野さんが用意してくれたバーボンを一気に煽った。

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