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〝風が吹けば桶屋が儲かる〟というのは、風が吹けば土埃が起き、それが目に入り盲人が増え、盲人が増えると、三味線で生計を立てようとするために、三味線の需要が増え――とドミノ倒しのように話が進み、最終的には桶屋が儲かるという例え話である。
要約するなら、あるできごとが、一見関係のないできごとにまで影響を与えるという意味だ。
俺の説明に、タルサは満足そうにうなずく。
「悠久の魔女殿が視られる未来とは即ち、自分が未来を視なかった場合に、どのように未来が進むかを視られるだけじゃ。つまり、自分が視てしまうことで、すでに未来は変化しておるわけじゃから――正確な未来というのは絶対に視ることができぬ。そもそも、悠久の魔女殿は本来〝変える〟という願いを持つ転生者じゃ。自分の未来をどうしても変えてしまう悠久の魔女殿は、自分の未来だけは視ることができぬ」
タルサの言葉に納得した。
完璧な力に見えて、意外と弱点があるらしい。
「故に、悠久の魔女殿は自分と他者の関りを拒んでおった。それは、未来視をする自分と他者との距離が近ければ近いほどに、未来が事細かに変化してしまうからじゃ。そうなれば未来を視ることそのものの意味が失われるからのぅ」
「……悠久の魔女が一人で国づくりを進めていたことにも、意味があったのか」
「意味のないことなど、この世には何一つありはせぬ」
俺の言葉に、タルサは笑う。
「アリシア殿がお主様を祈ったことは、この未来を引き寄せるために必要じゃったし、お主様が命懸けでミーナ殿を説得したことにも、間違いなく意味はある」
正面からの褒めるような言葉に、少しだけ心がむずむずした。
「しかし、悠久の魔女殿が蘇ったとはいえ、またこの国を悠久の魔女殿に任せれば、同じことの繰り返しになる。故に、これからも大変じゃが、アリシア殿も頑張って下され」
タルサの言葉にアリシアは笑い返していたが、俺には他にも不安があった。
「……タルサ、実は頼みがあるんだが?」
「なんじゃ、お主様?」
俺はそれを、あれからずっと考えていた。
俺たちは、これからは悠久の魔女に未来視を使わせないように国を変えていこうとしている。
なら、タルサにだって。
「タルサは〝知る〟たびに〝知りすぎて〟辛いって言ってたよな? だから、タルサもその力を――できるだけ使わないでいてくれないか?」
俺の言葉に、タルサは笑う。
タルサは俺を真っすぐに見つめて、改めて口を開いた。
「た」
「た?」
「た・わ・けっ!!」
「なっ、なんでだよ!?」
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