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 俺の覚悟を決めた言葉は、まるで見当違いだったのか?


 タルサは盛大にため息をつき、眉を寄せた。


「妾が定期的に〝知る〟ことでこそ、妾たちはあの黒い腕から無事に距離を取って暮らしておるのじゃぞ? それを失えば妾たちが窮地に立たされることは明白じゃ!」


「そりゃ……そうかも知れないけどよ? 俺は――」




 タルサは反論する俺の口を――自らの唇で塞いだ。




「なっ!? タ、タルサァッ!?」


「ちょ、ちょっと! アンタたち何やってんのよ!?」


 慌てる俺とアリシアの前で、タルサは顔を真っ赤に染めていた。


 そんなタルサは、まっすぐに俺を指さして口を開く。


「よーく聞くが良いっ!! 妾は――お主様のためならば、それぐらいは耐えられる女じゃ! 妾はこれからもやりたいようにやる故、覚悟しておれっ!!」


 仁王立ちするタルサからは、滲み出る恥ずかしさが隠しきれていなかった。


 さすがのタルサも、あれだけの酒を飲んで酔いが回っているのかも知れない。


 ……まったく、せっかくのキスが酒の味じゃ、風情も何もあったもんじゃないだろ?


 俺は苦笑しながらも、改めて口を開く。


「やりたいようにやってもいいが、一つだけ約束してくれ」


 俺の言葉が予想外だったのか、タルサがまた眉を寄せた。


「……ど、どんな約束じゃ?」


「俺はタルサを愛してるし、タルサも俺を愛してる。なら――これから隠し事はナシだ! 例え相手のためでも、大切なことは絶対に二人で決める! いいな!?」


 俺の言葉に、タルサは大笑いした。


「うむ! 約束じゃ!」


「おーい、タルサの姉御っ! 戻ってこーいっ!」


 笑顔の戻ったタルサに、メリッサさんの呼び声がかかった。


「そろそろ決勝戦を始めるぞぉおおっ!!」


「うおおおおおっ!」


「いったれぇええ!」


「待ってましたぁああああ!」


 メリッサさんの音頭にどよめく会場へ、タルサが戻っていく。


 決勝の舞台に立ちはだかるのは、ヘッドのマブダチであるドワーフさんだ。ドワーフさんはヘッドなどの含まれる酒が弱く恵まれた相手に当たって勝ち上がってきたために、優勝候補のサイクロプスさんを下したタルサよりも明らかに余裕がある。まったくもって不公平なルールで、こうなれば純粋な実力勝負とは行かないだろう。


 でも、悪いな。


 この賭けは俺の勝ちだ。

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