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「いろいろ、ありがとな」


 俺の礼に、アリシアがふんと鼻を鳴らす。


 俺の礼には事後処理だけでなく、あの土壇場で魔力を分け与えてくれたことも含まれている。アリシアが俺に祈ってくれなければ、こんな未来は訪れなかっただろう。


「私は悠久の魔女様のために、嫌々アンタに祈りを捧げただけよ!」


 アリシアもヘッドに付き合って飲んでいたから、少しだけ頬が上気している。


 そんなアリシアの瞳はどこか潤んでいて、俺を見上げる顔は可愛いと思う。


「アンタのためじゃないんだから、勘違いしないでよね!」


 まるで、ツンデレのテンプレみてぇな発言だ。


 アリシアの様子に少し笑って、少し落ち着いた。


「……これで、この国も良くなるかな?」


「……そうかもね」


 のんべぇたちを眺めながら聞くと、アリシアも吐息を漏らすように答えてくれた。


「やっぱり、悠久の魔女様はこの国に必要よ。でも、私たちは悠久の魔女様に頼りすぎていたんだと思う。これからはタルサの改革をもっと進めて、悠久の魔女様も安心できる国に変えていかなきゃいけないわ」


 悠久の魔女が自らの寿命を糧に魔力を得ていたことを、俺たちはタルサから聞いていた。悠久の魔女は確かに有能だが、それにはもちろん限界があったんだ。


 でも、悠久の魔女が本当に未来を視ることができるなら、


「俺たちって、悠久の魔女の手のひらで踊らされていたのかな?」


 未来が本当に視えるなら、俺たちが目指した、この未来ってのは――


「それは違うぞ?」


 声の方へと視線を向ければ、ニヤリと笑うタルサが立っていた。


 タルサの背後にあるテーブルでは、サイクロプスさんが苦しそうに呻いている。


 どうやら、タルサは準決勝も勝ち進んだらしい。


「どう違うんだ?」


 俺の問いに、タルサは持ったままのジョッキを飲み干してから答える。


「ここだけの話じゃが、悠久の魔女殿には視えない未来があるのじゃ。正確には〝視えるが変わってしまう未来〟となろうかのぅ?」


「……どういう意味だよ?」


 ますます意味が分からずに聞くと、タルサが声を立てて笑った。


 タルサも顔が上気しているけれど、まだまだ頭は回転し続けているらしい。


「お主様は〝風が吹けば桶屋が儲かる〟という諺を知っておるか?」


「それぐらいは知ってる」


 俺がそう答えるが、隣のアリシアに袖を引っ張られた。


「ねぇ? その意味、私に教えてくれない?」


 アリシアは興味津々といった顔だったから、俺は説明することにした。

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