アリシアと悠久の魔女

218


 同刻。


 この国で最も大きな教会で、アリシアは祈りを捧げていた。


 アリシアはとても成人には見えぬ小柄であったが、それはただアリシアが小人族であるだけだ。アリシアはこの教会で最も位の高い主教を務めており、それは自分の身近にいた修道士たちが自分を推薦してくれたからに他ならない。


 アリシアの赤い長髪は、ステンドグラスから差し込む色とりどりの日差しに彩られていた。教会はとても静かで、そんなアリシアの周りには、仲間の修道士たちが倒れている。


 修道士たちはまだ息をしているから、魂を持っていかれただけだ。


 魂が消滅していれば、肉体の生命活動も終わりを告げる。


 つまり、ミーナの儀式は発動したが――まだ魂は消費されていないということになる。


 アリシアは深く、心の底へと精神を集中させた。


 アリシアの仲間たちは、信じられないであろう話を、全て信じて受け入れてくれた。


 それどころか、悠久の魔女様の死を悲しみ、そんな大きなものを一人で抱えて辛かっただろうと抱きしめてくれさえした。そして、アリシアに賛同し、短い間に祈りを捧げ――できる限りの魔力を水晶へと集めてくれた。


 アリシアは一人になっても、祈りを捧げ続ける。


 皆で集めた魔力を届けるために、祈りを捧げ続ける。


 あれだけ大見得を切っておいて、自分はシュウの力にはなれないかも知れない。


 なぜなら、シュウには自分と同じように魔術の心得がない。


 つまり、そんなシュウに魔力を捧げたところで、意味がないかもしれないからだ。


 でも、アリシアにできるのは――ただ、祈ることだけだった。


 それにしても、ただの奴隷から主教にまで這い上がった自分が、悠久の魔女様以外の神に祈りを捧げる日が来るとは思わなかった。別の神に祈りを捧げても破門されないほどに懐の深い神は、恐らく悠久の魔女様ぐらいだろう。


 アリシアは、悠久の魔女様に初めて会った時のことを、今でも鮮明に思い出せる。


 ――私は、ずっとあなたたちの幸せを祈っています。


 悠久の魔女様は顔を綻ばせ、そう口にした。


 悠久の魔女様は他人との関りをできるだけ持たない方で、その言葉を直接頂けたのは、主教である自分だけだった。


 悠久の魔女様は、絶えず民を見る。


 アリシアの公言したその言葉は、いつの間にか、この国を代表する諺にまでなってしまった。


「悠久の魔女様、見ていてください」


 アリシアは薄く笑う。


「私は、悠久の魔女様のために、別の神に祈りましょう」

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