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 ミーナさんには剣の心得がなさそうだけれど、カルヴァンの剣は、それ自体が意志を持っているかのように俺に向かって来た。


 華奢なミーナさんとは思えぬ力に、俺の魔剣は少しずつ押し負けていく。


「違うんです! 俺は――」


「私が間違っていることなど、百も承知です!!」


 なんとか説得しようとする俺の前で、ミーナさんの瞳には涙が浮かんでいた。


「何があろうと、私は悠久の魔女様を蘇らせます! それで悠久の魔女様が喜ぶなんて思っていません! むしろ、悠久の魔女様は、私を嫌うかも知れません! 私のことを、軽蔑するかもしれません! しかし、それでも――私は、退けないんですよ!!」


 俺の持つ魔剣には、タルサと戦った時にできたヒビが残っていた。


 それが徐々に、広がっていく。


 このままでは剣が折れ、俺はそのまま斬り殺されるかも知れない。


 そう思うほどに、ミーナさんの剣には戸惑いが無かった。それほど力強いミーナさんの剣を跳ね返すこともできず、俺はただ、耐え続けることしかできない。


 どうすれば良い?


 どうすれば――


 悩んでいるような時間も、ありはしなかった。


「終わりだ!」


 かち合う刃先からカルヴァンの声が響き、さらに黒い剣の力が増した。


 俺は結局のところ、覚悟が足りていなかったのだろう。


 命を懸けておいて、俺は最後の最後まで、がむしゃらにはなれなかった。そんな俺が、全てを懸けて正面から現れたミーナさんに勝てる道理などありはしないのだろう。ミーナさんの想いは、俺よりも確実に――上だった。


 俺は呆気なく、ここで終わるのだろうか?


 ……。


 不意に、タルサの顔が思い浮かんだ。


 タルサは、これが危ない賭けにも関わらず、俺が勝つと笑ってくれていた。


 タルサは俺の帰りを信じて、今も待っている。


 ――なら、俺が信じなくてどうする?

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