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 くしゅん。


 小さな病院の受付で、鼻をかむ白衣の獣人がいた。


 誰かが自分の噂話でもしているのだろうか?


 そんな疑問を持ったウサギの獣人である彼女は、その名をメイという。


 メイは今日も笑顔を絶やさずに過ごしていたのだが、今日はいつもに増して患者様が現れない。閑古鳥が鳴いているのはいつものことだが、予約を入れていたカルテさんですら現れないのは妙だ。カルテさんは神経質で嫌味ったらしいところがあるから、会わなくても良いのならそちらの方が嬉しいけれど。


 考えてみれば、受付嬢なんて患者が多くても良い事などひとつもない。


 どうせ給料は時給制だし、この暇な時間を享受するべきだ。


 いや、待て。


〝悠久の魔女様は、絶えず民を見る〟とも言うし、もっと真面目にした方がいいのかも知れない。でも、そもそも患者様が少ないという事は、それだけ皆が健康だということでもある。


 ……どちらが正しいのだろうと思いながら、やけに通りが静かなことに気づいた。


 自慢の長い耳をぴくりと動かして通りの音を拾うが、馬車のひづめの音ですら聞こえてこない。世は事もなし。少しぐらい、気を抜いても良いかも知れない。


「これも悠久の魔女様のお陰ね」


 メイは隠すこともなく欠伸あくびを漏らして、受付のカウンターに突っ伏してしまった。

 

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