カルヴァンと女神

211


 カルヴァンは、これでミーナの願いを叶えたハズだった。


 使い魔としての仕事を終え、そのまま宿主を失ったことで、自身は冥界に戻るハズだ。


 しかし、ミーナが魔法陣の中央で倒れた後、カルヴァンは呆然としてその姿を見つめていた。


 なぜなら、ミーナの魂が生贄に加わったにも関わらず、悠久の魔女を蘇らせるための儀式が発動していないからだ。ミーナの犠牲によって生贄の数が満たされたのであれば、すぐにでもカルヴァンの儀式は発動するハズだし、ミーナの魂が消費されたのであれば、ミーナの使い魔である自分も消滅するハズだ。


 つまり、ミーナの魂を捧げたにも関わらず、儀式は止まったままということになる。


「貴様、いったい何をした?」


 カルヴァンは膝をつく女神に問う。


 カルヴァンは問いただしながらも、女神が嘘をついているのだと思った。


 さきほど口にした〝生贄の数が足りない〟という理由は女神のフェイクであり、邪魔なミーナを止めるために、女神がミーナを生贄に捧げるように仕向けたと思ったのだ。


「どうやって騙した?」 


 カルヴァンの問いを前に、女神は薄く笑う。


「妾は、嘘をついておらぬ」


「ならば――なぜだ? なぜ、儀式が発動しない?」


「理由はひとつしかなかろう?」


 まさか――


「生贄が、まだ足りていない?」


 カルヴァンの導き出した答えに、女神が笑った。


「ヘッド殿たちに、ある条件を突き付けて仲間になるように仕向けたのを覚えておるか?」


 カルヴァンはこの場にそぐわない問いに目を細めながらも考える。


 ……この女神は、狼の獣人やリザードマンに対して〝誰か一人を生贄から外す権利の代わりに、悠久の魔女を蘇らせる手伝いをしろ〟と条件を出した。


 あいつらはその権利に目がくらみ、俺たちの手駒として動いた。


 これほど早く残りの生贄を集められたのは、奴らの存在が大きい。


「……奴らのような者には、あれ以上の餌は無かろう」


「くくくくくくく」


 カルヴァンのことを、女神はまっすぐ見据えている。


「では、どうしてロウ殿が妾たちを裏切れたと思う?」

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