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「それができる人間が、この異世界には一人だけ存在しているのじゃ」


 タルサさんは、シュウさんの頭を撫でながら続けた。


「シュウ様の願いは〝この世界の歴史を参照する力〟ではない。シュウ様の本当の願いは〝世界を創る力〟である。そんな願いを持つシュウ様ならば――魂だけになっても空間と体を生み出すことができるハズじゃ。シュウ様はこの異世界を創る前に、そんな偉業を成しておる」


 ……。


 シュウさんは、魂だけで空間と体を生み出せる?


 それは――その結果、何が起きるのか?


 私が視線を向けた先で、カルヴァンは呻くように口を開いていた。


「俺様たちの集めた魔力を――魔法陣の中から、横取りする気か」


「……そういうことでしたか」


 シュウさんは、私たちが集めた国民の魂を引き換えに、別の〝何か〟を発動しようとしているらしい。そして、その横取りのための時間を、タルサさんは稼いでいるのだ。


「カルヴァン、安心してください」


 そして、私は、それを阻止する方法に気づいていた。


 なんて簡単で、当たり前の答えなんだろうか。


 前掛けから、国籍登録書とペンを取り出す。


 そもそも、最初から、こうすべきだったのだ。


 この国の民を一方的に生贄にしておいて、自分だけが生き残るなんて、そんなことは許されないと思っていた。儀式はすでに発動しているのだから、あとは生贄の数さえ揃えてしまえば――時間稼ぎをさせずに、悠久の魔女様を甦らせることができる。


「ミーナ殿?」


 タルサさんが眉を寄せ、私を見つめている。


 私はそんなタルサさんに頭を下げた。


「私を生贄に加えさせてくれて、ありがとうございました」


 私は笑顔を作って、国籍登録書へと名前を書き込んだ。


 これでもう、苦しまなくて済む。


 ただ、ひとつだけ。


 ……面と向かって、悠久の魔女様に謝れないことだけが、心残りだった。


 名前を書き終わると、胸に鈍い衝撃が走った。


 ごめんなさい。


 ネル姉さん。

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