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「シュウ様をメリッサ殿に褒め殺しにさせ、剣術の才能があると思い込ませることにより――本当にシュウ様を強力な剣士に育てたのと同じじゃ。本来はただの紙でしかなかった登録書を〝儀式の生贄を集めるため〟に使用するため、シュウ様という観測者に〝そう思い込ませた〟ところまでは良かったが、先手を打っておいた」
「……」
「ヘッド殿は普通の偽名ではなく、シュウ様がヘッド殿を偽名だと認識しており、その偽名であるからこそ、有利に働くことがある――という刷り込みもしてあるのじゃ。シュウ様という観測者によって認識されたそれらの事実は、願いと同等の価値がある。結果、ヘッド殿に対して国籍登録書は無効となり、生贄不足が発生した――という訳じゃな」
……。
タルサさんの狙いが、ようやく分かった。
タルサさんは、私たちがシュウさんの観測者としての力を利用して生贄を集めたように、観測者の常識を捻じ曲げることで、法則を捻じ曲げたのだ。
「生贄が足りない理由は分かりました」
私はまっすぐにタルサさんを見つめた。
タルサさんはやはり、一筋縄でいく相手ではない。
「しかし、それでは――ただ儀式を中断させただけにすぎません。儀式が失敗したわけではありませんし、それは時間稼ぎにしか――」
「時間稼ぎこそが、最も大切なのじゃよ」
タルサさんが、不敵に笑っている。
どこか余裕のあるその表情に、私は焦った。
「ど、どういうことですか?」
「シュウ様は普通の転生者の〝願い〟とは別に、観測者としての力があることは話したな?」
「……はい」
それは先ほど、身をもって知った事実だ。
「しかし、そもそも、シュウ様には願いの力もある」
「……願いの、力?」
確か、シュウさんの願いは〝この世界の歴史を知ること〟だったハズだ。
そんなものが、この場で役に立つとは、到底思えない。
「どんな力があろうと無意味だ!」
私の混乱をよそに、カルヴァンが吠えていた。
「小僧にどのような力があろうとも、すでに小僧は魂を奪われ、術式に取り込まれている! いかに儀式が中断されようとも、魂だけで意思を持って行動することなど何者にも――」
「くくくくくく!」
タルサさんの笑い声が、静かな書斎に響き渡った。
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