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 庭園では、未だにゴーレムとの戦闘が続いていた。


 頼れる仲間の存在もあり、すでに何十体もゴーレムを倒しているが――倒すよりも、新たなゴーレムが生まれる方が早い気がする。


 このまま続けても、勝ち目は薄いか?


 ヘッドがそう思いつつ、相対するゴーレムにナイフを投擲した瞬間、ある異変が起きた。


 暴れていたゴーレムが、ナイフでとどめを刺す前に動きを止めたのだ。


「……何だ?」


 気づけば、至る所から聞こえていた怒号や、武具のかち合う音も聞こえなくなっている。


 不意に訪れた静けさに疑問を覚え、ヘッドは中庭を見渡した。


 そんな視界の中で、ゴーレムたちはびくりと震え、その役目を終えたように土くれへと戻っていく。ゴーレムの水晶はまだ輝きを保っているし、魔力切れによる崩壊ではないだろう。


「お前ら、大丈夫――か?」


 そして、倒れていたのはゴーレムだけではなかった。


 ヘッドの見つめる先で、仲間ののんべぇや、リザードマンたち。そして、鬼神の如く大暴れしていたメリッサまでも、一人残らず倒れている。


「メリッサッ!?」


 ヘッドはメリッサに駆け寄って、その呼吸を確認した。


 メリッサは呼吸を続けているから、まだ死んではいない。穏やかな顔で眠っているだけに見えるが、声をかけたり頬を叩いたりしても、メリッサは目覚める気配がなかった。


「儀式が、発動しやがったのか」


 メリッサは恐らく、魂を抜かれている。


 そんなメリッサを見つめながら、ある違和感にヘッドは気づく。


「……どうして、俺は無事なんだ?」

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