206


 カルヴァンは俺たちを見据え、牙の生えた口の中へ腕を突っ込むと――腹の中から漆黒の剣を取り出した。カルヴァンが足に力を込め、瞬時に斬りかかってくる。


「くくくくくく!」


 タルサが俺の前に出て、カルヴァンの剣をアイスの棒で受け止めていた。


「何を躊躇しておる?」


 タルサの視線はカルヴァンの向こう側、ミーナさんに向けられていた。


「妾はカルヴァン如きで止められぬぞ!」


 タルサがアイスの棒を振るうと、カルヴァンの剣は呆気なく折れてしまった。


 タルサは返す棒でカルヴァン自身へと斬りかかる。


「ミーナ! 急げっ!!」


 カルヴァンの声を受け、ミーナさんが改めて膝を折った。


「我は代行し祈りを捧げる者なり」


 ミーナさんの祈りに呼応するように、ミーナさんの周りに集められた登録書の束が青白く輝いた。どこからともなく風が吹き起り、魔法陣を包むように大量の登録書が蠢く。


「幾重の魂を束ね、汝に名を授けん」


 その言葉を受け、俺のポケットも輝いていた。


 そこには俺の名を書いた登録書がある。


 手にして広げれば、中央に記された六芒星が眩しいほどに輝いていた。俺が思わず目を細めた拍子に、登録書は突風に攫われて手から放れ、目の前で広がる登録書の波に吸い込まれた。


「今ここに、黄泉の盟約を破棄し、黄昏を彷徨う魂を呼び戻せ」


 ミーナさんの呪文と共に、俺の胸の奥に、鈍い衝撃が走った。


 大きくなる鼓動が邪魔をして呼吸がしにくい。喉が引きつき、額に冷や汗が浮かんで耳鳴りがする。周囲の音が、遠のいていく。


「絶対に、帰ってくるのじゃよ?」


 タルサの声が聞こえたと思ったら、意識が途絶えた。

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