俺とミーナさんの祈り
205
玄関ホールには外の喧騒が届いているが、それに相反するように誰もいない。
アリシアが集めていた水晶はゴーレムを生み出すために使われたのだろう。全てが空になって転がっていて、魔剣に魔力を補充できないことだけを気にしながら――俺とタルサは大きく豪奢な廊下を超えて二階へと階段を上る。
悠久の魔女の書斎は二階の最奥だ。
俺たちはそのまま書斎へ続く扉を開く。
広い書斎の床には複雑な魔法陣がいくつも浮かび上がって、青白く発光していた。
そんな部屋の中央。
積まれた国籍登録書に囲まれたミーナさんが膝をつき、祈るように両手を組んでいる。
「……タルサさんも、私を裏切るんですね?」
そんなミーナさんを前に、タルサは笑った。
「妾は、ミーナ殿を裏切ってなどおらぬぞ?」
「え?」
タルサの言葉が予想外だったのだろう。
ミーナさんはきょとんとしてから口を開く。
「タ、タルサさんは儀式を止めに来たのでしょう? そのためにシュウさんをここまで連れてきたのではないんですか?」
「確かに、シュウ様があのことに気づけば、そもそもこの儀式は不発に終わる可能性もある。しかし、妾とシュウ様は、そんなありきたりな答えを望んでおらぬ」
タルサは両手を広げ、不敵に笑みを漏らす。
「妾たちが目指すのは――その先じゃ」
「……わけのわからないことを言っても、私は騙されませんよ?」
ミーナさんが立ち上がり、声を荒げる。
「カルヴァン、二人の足止めをお願いします!」
ミーナさんが叫ぶと、俺たちの前に黒い影が生まれた。
その影は地面からずるずると地上へと這い出し、蠢いて黒い塊へと変化した。
それは瞬く間に心臓へと姿を変え、それを中心に内蔵や骨格が生まれていく。背骨が四肢や頭蓋骨へと延びたかと思えば、肩甲骨からは翼が生え、尾骶骨よりもさらに伸びた脊椎は尻尾を生み出す。その骨格を基礎に筋肉繊維がひしめき、黒い皮膚に覆われていった。
「俺様がミーナの邪魔はさせない!」
変異を終えたソレは、頭に角の生えた黒い悪魔だった。
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