狼男と女剣士
190
「お互いに、かくれんぼを楽しむ歳じゃないだろ?」
「……」
シュウの姿が遠のき、メリッサが襲撃者に向かって剣の切っ先を向けていた。
襲撃者はため息をついて、木々の間からゆっくりと狼の顔を出す。
「……よりによって、メリッサが裏切るとはな?」
ヘッドは腰のサーベルを抜き、腰を落としてメリッサに向けた。
「むしろ私には、ヘッドの考えてることの方が分かんないよ?」
やれやれと言うメリッサを、ヘッドは睨み続ける。
正直に言って、最低最悪の相手だとヘッドは思った。
このまま戦うのだとすれば、怪我をさせずにメリッサを退けるのは難しい。
ならば口先で丸め込むのが得策だが、そう簡単に行くだろうか?
「この世界を救うためには、悠久の魔女様が必要だ。悠久の魔女様がいなけりゃ、この国は崩壊する。……獣人の国に戻ることもできなくなった俺たちは、また地獄に逆戻りだぞ? そんなことは説明するまでもねぇよな?」
ヘッドの言葉に、メリッサがため息をつく。
「建前はいいよ」
「建前、だと?」
ヘッドは願いも活用してメリッサの真意を探るが――そこに嘘はない。
メリッサはどこか確信をもって、こちらの嘘を見破っているらしい。
「ヘッドは仲間を助けるためにタルサの下についたんでしょ? そんなことに気づかないとでも思ったの? それがわかるぐらいには、私はアンタと過ごしてるってのにさ?」
「……勝算の高いほうを選ぶのは、当たり前のことだ」
ヘッドは顔を歪めて反論するが、メリッサも同じような表情をしている。
「アンタは、いつからそんなに臆病になったのよ?」
「俺が臆病だと? 俺は当たり前の選択をしてるだけだっ!」
ヘッドの言葉は、まるでメリッサに信用されていなかった。
メリッサは悲しそうに気落ちしていて、ヘッドにはそれが不可解でならない。
「……昔のアンタは、もっとギラギラしてた。小金を稼ぐために尻尾を振るようなワンちゃんは私の好きなヘッドじゃない。そもそも、アンタの言葉はどこまでが本当なんだい?」
「……」
「ドワーフのスケベ親父にも嫁と娘がいるでしょ? ギガンテスの旦那だって孫が生まれたらしいじゃない? アイツらの家族まで守るとして、その先はどうなるってのよ? 兄弟の家族は? 配偶者の親御さんは? それに、あいつ等と繋がりのある他の仲間はどうなるっての? 悠久の魔女様の生贄に必要な頭数があるなら、全部を助けることなんてできないんでしょ?」
「俺たちは悠久の魔女様に選ばれたんだ! どの世界も弱肉強食。それはこの国だって変わらねぇ。力のある奴が生き残るのなんて、どの世界でも――」
「嘘は、もういいから」
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