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 俺はこの後、それで戦うことになる。


 ……俺に、人を傷つけることなんて、できるだろうか?


「覚悟はできたか?」


 俺の心を読んだかの様に、メリッサさんが問いかけてきた。


「できました――って、言えなくてすみません」


「気づいてるなら、それで充分だ」


 俺の答えに、メリッサさんが笑った。


「正直に言って、シュウはこの世界のことを何も知らねぇ。他国では奴隷として扱われる種族も多いし、圧政に苦しむ奴も多い。力が無ければ理不尽な理由で殺される奴は掃いて捨てるほどいる。それに対して非道な仕返しをする奴だって多くて――だからこそ、エターナルを天国だと思うような奴も、悠久の魔女様を称える奴も多い」


「……」


 メリッサさんは、とても腕の立つ剣士だ。


 多くを語らないけれど、過去に地獄を見てきたのかも知れない。


「そんな世界だからこそ、お前みたいな甘ちゃんの理想が必要だと思う」


 そんな言葉に感化されていた時。


 俺たちの跨る馬が急に立ち止まり、いななきをあげた。


「なっ!?」


 馬は前足を大きく上げ、俺は重心を失って馬上から転げ落ちてしまった。


 石畳に背中をぶつけて涙目になる視界の先で、馬の腹にナイフが突き刺さっていることに気づく。メリッサさんは、そんな馬を落ち着かせようと首筋を撫でてから飛び降りた。


「シュウ、悪いね」


 そのままナイフに気づいたメリッサさんは、顔を歪めて森へと視線を向ける。


「私には野暮用ができちまった」


 メリッサさんが大剣を抜いて切っ先を向けた方向――木々の間で、何かが光った。


 それが俺に向けられて投げられたナイフだと気づいた頃には、すでにメリッサさんが大剣を振るって叩き落していた。


 恐ろしく速い剣技に、森の奥で誰かがため息をつく。


「あいつ等が足止めできてねぇってどういうことだ?」


 聞き覚えのある声色に気を取られた俺に、メリッサさんが叫ぶ。


「ここは私に任せて、先に行きなっ!」


「は、はいっ!」


 逃げるように走り出した俺の背後から、刃先の交わる金属音が響く。


 恐らく、さらにナイフが飛んできているけれど、それをメリッサさんが叩き落してくれているのだろう。


 俺はメリッサさんの腕を信じて無我夢中で石畳を走った。


 不謹慎かもしれないが、メリッサさんへの心配はまるでない。


 あれだけ強い人が負けるなんて、どんな敵であってもあり得ない――俺がそう信じることこそ、メリッサさんの力になる気がした。


 でも、


「二人とも、無理すんじゃねぇぞっ!!」


 俺の捨て台詞に、メリッサさんと狼男の笑い声が返ってくる。


 あの二人を戦わせてしまうのは、とても申し訳なかった。

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