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「……で、ソイツはどこに集めてある?」
「悠久の魔女様のお屋敷よ」
リザードマンの問いにアリシアが答え、ロウがまとめる。
「つまり、国を守るために俺たちの成すべきことはひとつだ。儀式が始まる前に、悠久の魔女様のお屋敷に辿り着き、国籍登録書を燃やすか破り捨てる。ある程度の数を消しさえすれば、生贄不足で儀式は不発に終わるハズだ」
ロウの宣言にざわざわとする会議室に、それは突然訪れた。
激しい衝撃と轟音。
地震でも起きたのかと思ったが、それは違った。
室内なのに日差しを感じた俺が顔を上げると、会議室の天井が、無くなっていた。
会議室の天井はぽっかりと取り外され、その先には青い空と太陽が見える。
そんな外界から室内を覗き込むように――岩の塊のような巨人が顔を向けていた。
その巨人の腕にはこの建屋の屋根が掴まれていて、俺はようやく何が起きたのか気づいた。岩でできた巨人が天井を掴み、蓋でも外すかのように屋根を持ち上げてしまったらしい。
「ゴ、ゴーレムだと!?」
俺の隣でロウさんが巨人の名を口にした。
その体躯は細身だが、身長だけでも三十メートルはありそうな巨人。
顔の中心には水晶が埋め込まれているが、表情どころか目や口すらついていない。そいつは全身が無機質な岩をつなぎ合わせてできており、ゴーレムという名は相応しいが、その大きさだけは想像を遥かに超えている。ゴーレムはその手のひらだけで、俺よりも大きいだろう。
ゴーレムは不意に屋根を投げ捨て、自由になった右手を俺に向かって伸ばしてきた。
「なっ!?」
ゴーレムの動きは、その巨体に似合わないほどに速かった。
俺は逃げる間もなく掴まれてしまい、そのまま持ち上げられてしまう。
ゴーレムの胸元まで持ち上げられてしまった俺は、ここから落とされただけでも死ぬかも知れないと思う。身動きが取れず、思わず恐怖に顔が引きつるが――俺はこの短い間で、ゴーレムに目的があるのだと気づいた。
ただ暴れるだけなら、このゴーレムの行動は不自然だ。
それに、こんな岩でできた腕に掴まれているにも関わらず、俺には今のところ怪我がない。俺を怪我なく捕まえるなんて、殺すことより難しいだろう。
つまり、このゴーレムは俺を捕らえるのが目的で、俺を殺す気はない。
そう考えるなら、コイツはタルサかミーナさんの送り込んだ敵の可能性が――
「おいおい、何やってんだよ?」
不意に、聞き覚えのある声が聞こえた。
俺が地面へと視線を向ければ、そこにはメリッサさんが立っていた。
「まったく情けないねぇ」
「メリッサさん!? コイツの目的は俺みたいで――殺す気はないみたいです! お、俺は大丈夫ですから、は、早く、逃げてくださいっ!!」
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