俺と初めての実戦

182


 ロウに連れられて入ったのは、同じ建屋にある会議室のような部屋だった。


 長机の並べられたその部屋には三十人ほどのリザードマンが集まっており、部屋に入った俺たちに鋭い視線が向けられる。……人種どころか種族が違うから、顔だけで彼らの違いを見分けることはできないが、リザードマンたちは個性的な恰好をしていた。


 鎧を着た見るからに兵士といった者もいれば、黒いスーツに身を包んで眼鏡をかけている紳士もいるし、ロウのように白衣を着た者もいる。


 ロウは部屋の前に出ると、俺に向かって口を開く。


「ここにいるのは、リザードマンの中でも俺が信用している精鋭たちだ。悪いが、ここにいる仲間には全てを話してある。そして、俺たちの意思はすでに決まっている」


 俺は会議室の前面に置かれたボードに目を向けて驚く。


 そこにはでかでかと〝悠久の魔女復活儀式対策本部〟と書かれていた。


 分かりやすいと思いつつも、ここにいる人たちは、皆が悠久の魔女がもう亡くなっていることを知っていて、さらにミーナさんやタルサがしようとしていることも知っているらしい。


「本当はもっと頭数を集めたかったんだが、時間が無くてな?」


「……十分だと思うわ」


 アリシアが思案顔でうなずいている。


「リザードマンは古代から群れを作る種族らしいし、その同胞を守るために自らも犠牲にするような種族だけど、エターナルはそんな種族ばかりじゃないもの。悠久の魔女様を復活させるのだと知れば……悔しいけれど、教会だったら自分の命を捧げようとする信者の方が多いと思うわ。少ない時間で否定派を見繕うのは難しいでしょうね」


 アリシアの言いたいことはわかる。


 仲間は多いに越したことはないが――そもそも、この事実を受け入れてもらえるかも分からない。少数精鋭になってしまうのは仕方がないだろう。


「少し質問がある」


 声に視線を向ければ、いかにも屈強な戦士に見える武装したリザードマンが声を上げていた。


「俺たちは魔術に疎い。そんな俺たちだけで、その儀式って奴を止めることなんてできるのか? 具体的にどうすれば止められる?」


「その方法は単純よ」


 口を開いたのはアリシアだ。


「悠久の魔女様を蘇らせるために必要なのは、その〝術式〟と〝生贄〟だわ。人を蘇生させるなんていう儀式が禁忌として扱われているのは、その代償の生贄が多すぎるため。ミーナはそれを解決するためにコレを利用している」


 アリシアは指名の欄が空欄になっている国籍登録書を出してみせる。


「ミーナは直筆の国籍登録書を儀式の契約書として利用しているから――国籍登録書さえ破棄してしまえば、対象を生贄にすることはできなくなるわ」


 馬車の中で、ミーナさんはアリシアの国籍登録書を破り捨てていた。


 あれでアリシアは生贄から解放されたとミーナさんは口にしたし、それは間違いないだろう。

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