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……タルサの真意は分かった。
でも、俺はどうしたいんだろう?
考えても、一向に答えが出ない。
「……何が正しいかなんて、わかんねぇよ」
俺の言葉が、石壁に吸い込まれた頃、
「正しいことなんて、分かりやすいものじゃないわ」
俺のつぶやきには、答えがあった。
「私ね。正直に言うと、ミーナの気持ちもよくわかるの」
「アリシア?」
隣の牢から、アリシアの声が続く。
「あのね。私って、悠久の魔女様のことを、この国で最も崇拝している人間の一人だったのよ? 主教に上り詰めたのだって、憧れの人に会いたかったからって気持ちは否定できないし、悠久の魔女様に直接会えた時は本当に嬉しかったわ。私は尊厳のない生活を続けていた奴隷だったし、正直に言えば、悠久の魔女様のためなら――死んでも良いと思うの」
……。
この国には、悠久の魔女の信者が多い。
アリシアの立場から考えれば、それは本心だろうし、同じように想う人もいるだろう。
「でもね」
しかし、アリシアの言葉には続きがあった。
「私ね。主教になってから、神託を得るために何度か悠久の魔女様に会っていたの。タルサの言ったように、奴隷を買いつけている間に――悠久の魔女様に利己的な部分があるのも気づいていた。でもね、悠久の魔女様は、本当にお優しい方だったのよ?」
アリシアは何が言いたいんだろう?
アリシアは薄く息を吐き、言葉を続ける。
「悠久の魔女様がこの国の民を大切にしていたのは、本当のことだったわ。だから、私はミーナの気持ちがわかりつつも、それを正しいとは思えないのよ。悠久の魔女様が蘇った時に、この国が無くなっていたら――悠久の魔女様は、悲しむでしょうね」
「……そうだな」
アリシアの言葉には、不思議な説得力があった。
同意する俺に、アリシアが笑う。
「でも、結局のところ、私は悩んだままなのよね。こんな私が、ミーナの儀式の邪魔なんてできるとは思えないし、私はたぶん力にはなれないわ。……私には、どっちか一つなんて選べないわよ。もっとわかりやすい答えがあったら良かったのにね?」
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