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 俺は体を捻り、スマホを取り出した。


 蝋燭の明かりに照らされた黒い画面を見ながら躊躇する。


 俺はパソコンを使いすぎて、電池切れでブラックアウトさせたことがある。


 俺にとって、このスマホの充電は生命線に等しい。タルサを無事に現世へ生き返らせるためにも必要不可欠な大切なピースだ。


 しかし、タルサが俺に隠して、何かをしようとしている。


 以前、俺に嘘をついたタルサは、自分の命を捧げて俺を助けようとしてくれた。


「……何かあったの?」


 急に黙った俺に、アリシアが声をかけてくれたが、


「できることがあるかも知れない」


 俺はそう言って、スマホの電源ボタンを長押しした。


 確かに、このスマホの充電は俺の命と同じぐらいの価値があるのかもしれない。


 でも、タルサに比べれば、何の価値もない。


「できることって何よ?」


「少し、待っててくれ」


 俺はできるだけシンプルに、何も考えずに小説サイトの専用アプリを立ち上げることにした。


 なぜなら、未確定な物理法則は、俺の無意識から生まれるからだ。つまり、少しでも自分に対して不利になるようなことは考えてはいけない。できるだけ何も考えず――いや、まてよ?


 俺の無意識から生まれる法則は、悪いことだけが現実に起きるわけじゃない。


 この力は、うまく利用すれば、俺の力に成り得る。


 俺にとって、今、必要なことはなんだ?


 考え――答えを出す。


 確かにこのスマホの電池は、俺にとってタルサの命よりは軽い。


 しかし、俺は必要最低限の時間で情報を手に入れるべきだ。


 なら、そのために必要なのは――調べる時間を減らすことだ。つまり、俺はできるだけ時間をかけずにミーナさんについて書かれた、外伝のような物語を読みたいということになる。


 ……ミーナさんが主人公として書かれたスピンオフ作品があれば良い。


 ……俺は精いっぱいに、ミーナさんのことを思い浮かべた。


 ミーナさんは、とても美人だ。


 くりっとした大きな瞳は潤んでいて、エルフ特有のとんがった耳もどこか知的な感じがする。それに反して性格は優しく、俺が掃除を終えるたびに見せてくれる笑顔はすごく眩しい。そんなミーナさんにはおちゃめなところもある。ある日、夕食を作りすぎて――腐ると勿体ないからと、みんなで無理やり食べたことがあった。あれは腹が痛いながらも、すごく笑えた。


 あんな可愛いメイドさんが、人気が出ないとは思えない。


 あれほど素敵なミーナさんなら、外伝が書かれていたって――不自然じゃないハズだ。


 俺が作者なら、スピンオフを書く可能性は高い。


 ミーナさんはそれぐらいに、魅力的な人だ。


 俺がゆっくりと瞼を開くと、プロフィール画面にアップされている物語が増えていた。


『異世界でエルフはメイドになる!』


 パンチの弱いタイトルに、少しだけ笑った。


 俺っていう作者は、どうもセンスが無いらしい。


 俺は苦笑しつつも、その物語をタップし内容を読み進めた。

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