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「……そうかも知れない」
アリシアの言葉はもっともだ。
でも、タルサの行動の意味が、俺にはなんとなく分かる。
これは憶測で、その真意はタルサにしか分からない。
しかし、その理由はヘッドを説得していたあの時とまったく同じなのだと思う。
「タルサはたぶん、本気で国づくりを頑張ってた」
「アンタねぇ?」
アリシアがたしなめようとするが、俺にはその確信があった。
「タルサは本気でこの国のために働くことで、この国の未来をミーナさんに示したかったんだと思う。タルサはアリシアと同じで、この国のことを本心から想ってた。だから、アリシアやヘッドやロウさん。そして、タルサ自身がこの国のために動く姿を見せることで――ミーナさんがこの国の民を生贄にしないように、説得しようとしていたんじゃないか?」
これが正しいなら辻褄が合う。
タルサがヘッドを味方につけたように、タルサはミーナさんを思いとどまらせるために、この一か月間、あの手この手で説得を続けていたんだろう。
なぜなら、俺が先ほどミーナさんを説得できなかったように、タルサもその場でミーナさんを説得することができなかった可能性が大きいからだ。
「なかなかの推理じゃない――って、誉めたいところだけどね?」
アリシアは反論を口にする。
「そもそも、なんで私たちを捕まえる必要があるのよ?」
アリシアの指摘に、俺は眉を寄せた。
「それが事実だとしたら、私たちを騙したままで、気づかれずに生贄の儀式を始めればいいだけじゃない? 国民にしているのと同じように、私たちにも最後まで嘘をつき通せば、反感を貰うことだってなかったハズでしょ? それなら、私たちを捕まえる理由がないわ」
それは……確かに不自然だ。
俺たちにあの儀式の詳細を話す必要が、ミーナさんにはあったということか?
……。
考えても、まるで理由が分からなかった。
いつか、タルサも言っていた。
知るとは正解を導き出す過程において重要な要因だ。
つまり、俺たちがその答えを出せないのは、情報が足りていないからなのだろう。
俺がタルサのように知っていたら、ミーナさんのことを、もっと理解できるのだろうか?
タルサの思惑も、理解できるだけの理由があるのだろうか?
しかし、この牢獄の中で、いったい何を知ることができると――
不意に、気づく。
俺の腕は黒い腕輪によって手錠のように繋がれているが、体を捻ればズボンのポケットぐらいには手が届く。俺がリザードマンたちに没収されたのは護身用の短剣だけで、俺の最も大切なアレが、ポケットに入ったままだ。
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