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正面には鉄格子と南京錠。
窓もない石造りの牢屋には簡易的なベッドがあるぐらいで、俺はミーナさんの魔法でできた腕輪をつけられたままだ。素手では扉を開けることもできないだろうし、仮にここから出られたとしても、こんな状態じゃ逃げることも難しいだろう。
リザードマンの口にした〝一日〟という時間に重みを感じる。
先ほどミーナさんは「明日には結果を知らせる」と言っていた。
あれはつまり――今日の間に、ミーナさんは悠久の魔女を蘇らせるということだろうか?
もしもそうなら、アリシアの言う通りに、こんな場所に長居するわけにはいかない。
一刻も早くリザードマンたちを説得して、この事実をタルサに伝え――
タルサに伝える?
いや、待て。
それはおかしい。
タルサなら――
「何か逃げ出す方法は無いのかしら?」
考え込む俺の頭に、アリシアの声が届く。
「そうだっ! タルサなら私たちが捕まってることなんて知ってるから、すぐに助けに――」
「いや、タルサは助けに来ない」
アリシアが「なんでよ!?」と素っ頓狂な声を返すが、俺には確信があった。
「あの何でも〝知っている〟タルサが、この事実を知らないハズがない」
俺の疑問に、アリシアも気づいたらしい。
「俺たちはタルサが全てを知る力があるからこそ、ミーナさんが裏切れないと確信していたし、この国の未来もタルサに任せたんだ。それなのに、ミーナさんは俺たちを捕まえるなんていう荒業に出た。そんなことをしたら、企むだけでもタルサにバレてしまうし、あのタルサなら、俺が捕まるよりも先に手を打つハズだ」
俺の言葉から、アリシアもひとつの結論を導き出す。
「最初から、こうなるとタルサは知っていたってこと?」
アリシアの答えにうなずく。
タルサが俺たちを捕まえる気だったのなら、ミーナさんと俺たちを同じ馬車で移動させたことも辻褄が合う。
「タルサはミーナさんと共犯だ」
考えてみれば、悠久の魔女のお屋敷に来てからというもの、タルサはどことなく意味深な言動が多かった。タルサは俺に対して、ずっと何かを隠していたんだ。
「でも、それだっておかしくない?」
アリシアが俺に向かって口を開く。
「タルサはずっと〝嘘をつかず〟に国のために働いていたのよ? ヘッドを信用するなら、この国の行く末をタルサは本気で願っていたし、そのための行動にも疑うところなんてなかったわ。だから……最初から国民を生贄にするつもりなら、この国の発展のために働くなんてことをする理由が無いでしょ?」
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