162
その言葉を聞いて、アリシアがさらに眉根を寄せた。
「それは……この国に忠誠を誓える人、でしょ?」
「三十点というところじゃな?」
タルサのため息交じりの言葉に、アリシアは口を尖らせる。
「だって、そういう風に決められてるじゃない!?」
アリシアはポケットをまさぐり、一枚の羊皮紙を取り出した。
アリシアの手にあるそれは、中央にエターナルの国旗である六芒星の書かれた紙で、上部には〝国籍登録書〟と題名があり、下部には〝私はエターナルに忠誠を誓います〟と記載され、氏名を記入する空欄へ続いている。
考えてみれば、俺とタルサはこの国に国籍登録していない。
だから、俺がしっかりと国籍登録書を見るのは初めてだったりする。
普通の紙より分厚い羊皮紙でできていて正式な書面だとは思うが、内容は意外と簡素だ。
「広い意味で言えば正解なのじゃが、悠久の魔女殿は奴隷を手に入れる際には〝問題を起こさない者〟だけを選びぬき、敬虔な信者へと育てておった。アリシア殿は悠久の魔女殿への恩義を感じておるのじゃろうが、それは全て――悠久の魔女殿にとって利益のある投資なのじゃ」
「そんな利己的な理由だけじゃないわ!」
アリシアが首を振り、タルサを睨む。
「悠久の魔女様は、恵まれない……ずっと、私たちのために――」
「アリシア殿の答えも、確かに事実じゃ」
「だったら!」
「しかし、それはアリシア殿のように〝役に立つ国民〟だからこそ大切にしていたに過ぎぬ」
「それは……」
タルサに見据えられ、アリシアの言葉は失速した。
「悠久の魔女殿は、ここでも〝未来視〟を活用しておった。悠久の魔女殿であれば損切も必要無い取引みたいなもんじゃし、勝ち続けるのは当然じゃ。国民の選別こそがエターナルの平和の正体であり、さらに言えば害悪となった民を、悠久の魔女殿は生贄に――」
「タルサさん!」
ミーナさんが、口を開いていた。
「……それ以上は、やめてください」
ミーナさんのうつむく姿に、タルサも居心地悪そうに頭をかく。
「少し言い過ぎた。すまぬ」
「いえ、それも事実です。だからアリシアさんには知っていただかなければならないことでした。しかし、アリシアさんが悠久の魔女様を想う気持ちは間違いではありませんし、悠久の魔女様がこの国の民を救っていたことも事実でしょう? ですから……」
「わかったわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます