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「私が来てやったわよ!」


 アリシアがノックもなしに書斎の扉を開け放つ。


 書斎の中央の机では、タルサとミーナさんが何やら書面を広げて話し合っていた。


「アリシアさん!?」


 ミーナさんが慌てて書面を前掛けへと隠したが、その仕草は不自然極まりない。


「くくくくく」


 そんなミーナさんの横で、タルサは不敵な笑みを浮かべていた。


 恐らく、俺たちが書斎に来ることをタルサだけが知っていたのだろう。タルサにからかわれているミーナさんに同情するが、あの書面は俺たちに見られては不味いモノなのだろうか?


「……忙しかったかしら?」


 俺の考えとは裏腹に、アリシアが申し訳なさそうに聞く。


 しかし、ミーナさんはかぶりをふった。


「大丈夫です! 気になさらないでください!」


「……そう?」


 アリシアは気遣う様子を見せたが、素直にミーナさんの言葉を受け取ることにしたらしい。


 俺はこういう素直なところが、アリシアの良いところだと思う。


「なら、ちょっと相談があるんだけど聞いてもらっても良いかしら?」


「ひと段落したところじゃし構わぬよ。何の話じゃ?」


 アリシアは「なら単刀直入に伝えるわね?」と〝移民の受け入れ〟と〝奴隷の買い付け〟について話し始めた。タルサはその話を聞きながらニヤついていたが、ミーナさんの表情は硬い。


「どうかしら?」


「そうじゃなぁ? 妾は問題ないと思うが――」


 ちらりとタルサがミーナさんを見つめ、ミーナさんはうつむきながらも口を開く。


「それは、難しいと思います」


「……どうしてよ?」


 否定されるとは思っていなかったのだろう。


 アリシアの眉が角度を上げる。


 アリシアは理性よりも先に感情が先に動きがちだ。


「そ、それは……」


 ミーナさんはアリシアの剣幕に戸惑っていたが、


「理由ならあるぞ?」


 タルサがそう口にし、二人に割って入った。


「悠久の魔女殿を妄信しておるアリシア殿には説明しにくいのじゃが、悠久の魔女殿は、全ての奴隷や移民を救っておったわけではない」


 タルサの言葉に、アリシアは眉を寄せる。


 不満げなその表情をやれやれとやり過ごし、タルサは言葉を続けた。


「奴隷の買い付けを悠久の魔女殿から指示されておったアリシア殿なら心当たりがあると思うのじゃが、悠久の魔女殿は奴隷の選り好みをしておる」


「……そんなの、当たり前じゃない」


「では、その線引きがどこにあるのか、アリシア殿は知っておるか?」

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