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「いだっ……痛いって、い、いてぇっ!? 何すんだよ!?」


「お主様は、人を信用しすぎじゃ」


 タルサはそのまま俺の背後に回って、肘で首を極めるが――不意にその力を抜き、そのまま俺の背中に抱き着いた。


 廊下の真ん中で、二人そろって膝をついて、タルサが俺に抱き着いている。


「……どうしたんだよ?」


 俺の問いに、タルサは躊躇しながらも答える。


「妾は、お主様に救われたこの命を粗末にはせぬ」


 タルサのその声からは、いつもの自信を感じられない。


「……タルサ?」


「妾が全力を出せるのは――お主様がいるからじゃ。妾がこの国やミーナ殿のために動きたいと思っているのは本心じゃが、お主様のためならば、妾は鬼にもなろう。妾はこの世界の何よりも、お主様のために動いておると信じて下され」


 タルサは、何が言いたいのだろう?


 その曖昧な言葉を聞きながら、不意に気づく。


 それは――


「俺には隠さないといけないことなのか?」


「……」


 タルサが、答えてくれない。


 タルサにはタルサの考えがあるのは分かる。


 でも――いや、それ以上に、何が必要なんだろうか?


 タルサが信じてくれと言っているなら、俺のやることは単純明快だ。


「タルサが無茶をしないなら、俺は許すよ」


 タルサがそれを聞いて、俺の背中に顔をうずめた。


 感じる吐息が、どうにも艶めかしい。


「でも、どうしてタルサは――そこまでこの国に肩入れするんだ?」


 俺の問いに、タルサは薄く笑って答える。


「妾が本物のタルサと共に現世で戦った話はしたな?」


 その話なら、忘れることができないぐらいに記憶に残っている。


 タルサは俺が死んだ後、現実世界で魔法に出会い、本物のタルサメシアに出会い、本物の戦争を経験している。そんなタルサの言葉を、俺はしっかりと受け止めなければならない。


「ミーナ殿は、あの時の妾と同じじゃ。タルサを失った妾は、国を守るために必死に戦った。この国が直面しておる問題は、どうもあの頃の日本と重なってしまってのぅ。……そして、妾がタルサやお主様を想う気持ちと、ミーナ殿が悠久の魔女殿を想う気持ちに差異はない。だから、妾はできる限り、ミーナ殿のために動いてやりたいのじゃ」


 タルサの気持ちは分かった。


 タルサがミーナさんのために頑張るのなら、俺だって、その手伝いができるように力を付けなければならない。


「俺も、すぐに強くなるよ」


「くくくくく」


 タルサの笑みが、いつもの不敵なものへと変わる。


「お主様の雄姿を見られるのが、今から楽しみじゃ」

 

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