俺とタルサの不意打ち
152
俺たちの話し合いが終わった頃には、すでに日が暮れていた。
昨日と同じように夕食を食べ終え、風呂に入って自室に戻ろうと廊下を歩いていると、
「だーれじゃっ?」
背後から目隠しされた。
俺にこんなことをする奴も、こんな喋り方をする奴も、一人しか心当たりがない。
「タルサ……なんの用だ?」
俺が聞くと、タルサはそのまま背中に抱き着いてきた。
タルサの大きな胸を背中に感じて、少し前にタルサを背負ったことを思い出す。
あの時は必死だったから気づかなかったけど、改めて考えれば凄い役得だった気がする。
「今日もお疲れ様じゃ! これから何をする? 夕飯か? お風呂か? それとも――」
夕飯は先ほど皆と一緒に食べたし、風呂にだって入ったところだ。
その後に続くであろう言葉に淡い期待が広がるが、
「――た・わ・けっ!!」
俺は背中に膝蹴りを食らった。
「いってぇええっ!?」
廊下に崩れ落ちる俺の横で、タルサが手を腰に当てて仁王立ちしていた。
「……な、何がしたいんだよ?」
涙目で見上げる俺に、タルサも不満そうに口を尖らせていた。
「お主様は、平和ボケしすぎじゃ」
「どういう意味だよ?」
俺の問いに、タルサは盛大にため息をついて答える。
「お主様は、現世で治安の悪い国へ旅行に行くこともなく、本当の戦争を知らぬから仕方がないのじゃが――お主様は異世界におるにしては無防備すぎる。メリッサ殿から剣術を習っておるのは結構じゃが、敵は正面から決闘を仕掛けてくるわけではないぞ? いくら剣術の腕が上がろうとも、奇襲への備えや気配を悟ることができなければ無意味じゃ」
ただの戯れかと思ったら、ド正論だった。
「剣術を身に着けてもらっておるのは、お主様が自分の身は自分で守れるようになって欲しいからじゃ。妾にもやるべきことがある故に、これから妾は、この屋敷を留守にすることも多くなるじゃろう。メリッサ殿にも頼みはするが、そう上手くいくとは限らん。いかなる時も、剣が抜けるぐらいにはしておくがよい」
タルサの言いたいことは、痛いほどわかる。
というか背中が痛いままだ。
「だからのぅ? お主様?」
タルサが手を差し出してきた。
俺はそれを借りて立ち上ろうとして――今度は手首を捻られた。
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