138
その申し出に、ミーナは眉を寄せた。
「私が主になったら、何が起こるの?」
「力を貸してやる。ミーナは姉を助けたいのだろう?」
その言葉は、ミーナの心を決めるには充分すぎる一言だった。
その想いと共に、ミーナは目覚めた。
目覚めた場所は相変わらず暗い世界だったけれど、目の前の壺から漂う調味料の交じり合った臭いを感じ、意識がはっきりとした。
ここは、ネル姉さんに押し込められた貯蔵庫の中だ。
現実に投げ出されたせいで姉たちの生々しい叫び声が脳内に蘇り、ミーナは小さな両手で両耳を覆うが、
「急がなければ、間に合わなくなるぞ?」
聞き覚えのある声にそう言われ、背後を振り返る。
自分の影に当たる部分で、何かが蠢いていた。
「カルヴァン?」
「使い魔は契約を守らねば消えてしまう。ミーナは俺様を消滅させる気か? 早くこんな場所から出て――姉を助けに行かねばならん」
「……うんっ!」
ミーナは返事をして、貯蔵庫から飛び出した。
床下から転がり出ると、そのまま玄関を開けて外へ飛び出す。
ミーナが通りに出ると、村の有様は変わり果てていた。
ごうごうと焚ける大きな炎がいくつも上がっており、その一つ一つが家を一軒飲み込んで広がり続ける火事なのだと知る。あの燃える家に住んでいたカロスお婆ちゃんは無事だろうか? いつもは火事が起きれば、村人総出で消火活動が行われるのに――見渡す限り誰も出歩いていない。
「あっちだ」
カルヴァンの声がして自らの影を見れば、そこから影で生まれた腕が伸び、村の中心を指さしている。ミーナはカルヴァンの指す方向、町広場へ向かって走った。
急いで角を曲がると、道端に何かが落ちていてミーナは蹴躓いた。
地面に転がって顔を上げ、反射的に振り向き、それが何なのか気づいてしまった。
それは村人の死体だった。
地面に寝そべるソレがすでに息絶えていると気づいたのは、その身体に首から先が無かったからだ。すでに魂の抜け落ち、横たわる体が揺らめく炎の光に照らされている。
手のぬめり気に目をやれば、どろりとした液体で汚れていた。視線を下げれば、転んで地面に接した服も、その死体を中心に広がる血だまりによって汚れている。
恐怖から正面を向くが、その先にはさらに恐ろしい光景が広がっていた。
広場へと続くその道に、数えきれないほどの死体が転がっている。
横たわるそれらは、全て首から上が切り取られてしまっていた。
血にまみれて身動きできなくなったミーナを見かねて、カルヴァンの声が響く。
「……ここからは、俺様が代わろう」
その言葉に反応すらできず、ミーナの意識は闇に沈んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます