137
家事にしか使えない弱々しい魔法で、ネルが何者かと戦っている。
どうしてネルお姉ちゃんは隠れなかったのかと考えて、ミーナはその真意に気づく。
ネルお姉ちゃんは――私たちから目を反らすために、わざと隠れなかったのではないか?
襲撃者は怯んだようだったが、ネルの抵抗も長くは続かない。乱暴に連れていかれるネルのことを思うと、恐怖に身が震えた。気づかぬうちに涙が頬を濡らしていく。
しかも、ミーナの恐怖はそれに終わらなかった。
家にはさらに複数の足音が響き、その者たちは部屋の物色を始めたのだ。
姉たちが、ひとり、またひとりと捕まっていく。
最初に見つかってしまったのはスーとメルだった。抵抗して泣き叫んだメルが静かにしろとぶたれていて、それを助けようと飛び出したサキが返り討ちに合う。悲痛な叫び声が続いて、ミーナは身を縮こまらせて耳を閉じた。
こんなことが起こるわけがないと、これは現実じゃないと願った。
それ以外に、幼いミーナにできることなど何もなかった。
果てしなく長く思える間、ミーナはずっと身じろぎ一つせずに身を隠した。
気づくと、世界は静寂に満ちていた。
いつからか喧噪は遠のき、ミーナは真っ黒な世界にただ一人でうずくまっていた。
顔を上げたが、そこには何も見えない。
ただ暗いだけの空間が、視界のいっぱいに広がっていた。
私はいつの間にか、眠ってしまったんだろうか?
「ここは、どこなの?」
ミーナの独り言には、返事があった。
「ここは契約の間だ」
「契約の間?」
見渡してみるが、その世界は瞼を閉じているように真っ暗で何も知ることができない。
「……あなたは誰なの?」
「俺様はカルヴァン。贄の儀式により異世界から呼び出された悪魔だが――お前が呼び出したわけではなさそうだな? 何が起きている?」
「そんなの、私もわかんないよ」
ミーナはただ隠れていただけだ。
ミーナの答えに、カルヴァンは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「お前の名は何という?」
「……ミ、ミーナ」
警戒するミーナに、カルヴァンは笑った。
「ではミーナよ。俺様は使い魔だ。使い魔は主となる者が存在しなければ消えてなくなるしかない。俺もせっかく転生してここに来たのだから、そのまま消滅するのは惜しい」
理解が追い付かないミーナに、カルヴァンが続ける。
「ミーナが俺の主になる気はないか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます