『異世界でエルフはメイドになる!』1

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 エルフの国アスガルの田舎町で、ミーナは六人姉妹の末っ子として生まれた。


 お世辞にも豊かな生活とは言えなかったが、ミーナの家族は仲良く慎ましく生きていた。エルフとは他の種族よりも魔法に長けた種族であり、個々の持つ魔力量も抜きんでている。筋力こそ他種族に劣るものの、父は魔法によって薪割りや狩猟を行っていたし、母も家事の至る所で魔法を活用していた。


 ミーナには魔法の才がなかったが、長女のネルは村の中でも恵まれた才能を持っていた。歳の差もあるけれど、ミーナの物心がつく頃には、すでにネルは杖を使って火種を生み出すこともできたし、料理で火を扱うのはネルの仕事になっており、雨の日に洗濯物を乾かすのもお手の物だった。


「お姉ちゃんはすごい!」


 ミーナはネルの魔法が好きだった。


 ネルの魔法を目にするたびに飛び出すその言葉はミーナの口癖で、そんな姉の力になりたいと思い、ミーナはよく家事を手伝うようになった。


「ミーナだって、こんなに小さいのにお手伝いできるなんてすごいよ?」


 ミーナはネルにますます憧れ、家事にのめり込むようになった。


 ミーナは魔法に頼らなくても自分が家族のためにできる事を見つけ、それを少しずつ手に入れられることに幸せを感じていた。


 しかし、そんな幸せは長くは続かなかった。


 突如として、ミーナの住む町が獣人の軍隊に襲われたのだ。


 エルフの田舎町などに、突然の夜襲に対する備えなどありはしなかった。


 しかし、知らせを受けた村人たちは家族を守るために立ち上がった。


 父は弓矢と斧を手に、母は杖を構えて家を飛び出す。


「あなたたちは安全なところに隠れていなさい」


 母に言われ、その言葉を守るようにして姉妹は様々なところに隠れた。


 次女であるサキはクローゼットに、三女であるコメトはベッドの下へ、四女のメルと五女のスーは押入れの奥へと身を潜め、末っ子のミーナが隠れたのは床下の貯蔵庫だった。


「ミーナは賢いんだから、何があっても出てきちゃ駄目よ」


 真っ暗で狭い貯蔵庫に押し込まれたミーナはそれだけで全てが怖かったが、ネルの言葉を守るために必死に口を閉じた。


 ただ時間が過ぎ去るのを待つだけでも恐ろしかったのに、さらに恐ろしいことが起きた。


 玄関の扉が、開かれる音が届いた。


 そして、ネルの抵抗する声が聞こえた。

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