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 全てを打ち明けようとする私の言葉に、タルサさんはまっすぐに口を開いた。


わらわはミーナ殿のやろうとしておることを知っておる。そして、それが許されないことだということも分かっておる」


「……」


 やはり、全て知られていたらしい。


 つまり、私の想いは、止められるのだろうと思った。


「ミーナ殿の計画は、妾にとっても価値があるが、倫理りんりに反する」


 顔を上げると、タルサさんは眉根を寄せていた。


「しかも、それが悠久の魔女殿のためになるかと言われれば、妾はいなと答えることしかできぬ。悠久の魔女殿は、そんなことのためにミーナ殿を残して逝ったわけではなかろう? その気持ちも知っているからこそ、妾はその直前までミーナ殿を説得したい」


「……それでも、私の気持ちが変わらなかったら――タルサさんは私を止めますか?」


 私の眼差しに、タルサさんは視線をそらさなかった。


「その時は、仕方ないじゃろうな?」


 タルサさんは何故なぜか優しい笑みを浮かべたまま、言葉を続ける。


「妾もその罪を背負おう」


 その答えに、私は焦った。


 どうして、そう答えてくれるのかが、理解できない。


「な、なぜですか?」


 素直に出た疑問に、タルサさんは改めて笑った。


「妾もな? 全てを捨ててでも守りたい相手がおるのじゃ。その気持ちが誰にも譲れないということも知っておるし、もしも妾がミーナ殿と同じ立場であれば、妾はその方法を選ぶじゃろう。まったく、全てを知るということも、良いことばかりではないな?」


 そんな困り顔を見ていたら、いつのまにか瞳に涙が浮かんでいた。


「あ、ありがとうございます」


 私は頭を下げるが、タルサさんは苦笑するだけだ。


「妾はミーナ殿の気持ちを利用しようとしているに過ぎず、罪をかぶるのは妾も同じじゃ。だから言ったじゃろう? 妾とミーナ殿は――一蓮托生いちれんたくしょうじゃと。しかし、その魔術には大量の生贄が必要じゃ。それをどう集める気なのじゃ?」


「その方法に心当たりがあるからこそ――スマホをミーナに盗ませたのだろう?」


 私が悩んでいる間に、カルヴァンが現れて口を開いていた。


 カルヴァンの眼差しに、タルサさんが改めて笑う。


「シュウ様は、不可能を可能にする男じゃからな?」

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