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 顔を上げると、シュウさんの着ていた服がかごに入っていた。


 とりあえず籠の前に立ってみるけれど、


「こんな無防備に大切なものを置いておくものでしょうか?」


 そもそも、私は誇り高き悠久の魔女様のメイドだ。


「そんな私が、客人の服を物色するなど――」


「いいから、やれ」


「しかし、そんな盗人ぬすっとじみた行為なんて――」


「はやく、やれ!」


「……」


 私はうながされ、仕方なくシュウさんの着ていた服を手に取った。


 見た感じ、出店などで売っている一般的なエターナルの外着である。赤と黒を基調としたデザインは、タルサさんのドレスとおそろいで、やはり悠久の魔女様に会うことを想定して、それなりにお洒落に気を使った結果かもしれない。


 ズボンの下には、下着が置かれていた。


「すべて調べろ」


「……」


「はやくしろ!」


「……」


 私は仕方なく、下着にも手をかけた。


 これまた一般的な男性用のパンツだ。特に気になる点もないが、脱いだ直後だからか着崩れているのが生々しく感じる。男性の下着など、生まれて初めて触った。


 ふと、丹念たんねんに調べながら、思う。


 今の自分は、全裸にタオルだけを巻いた格好だ。


 そんな私は、男性の脱ぎたてのパンツを手にしている。


 これはもしかしなくても、物凄く変態的行為なのではないだろうか?


「何かあるか?」


 何もありませんよっ!!


 そう喉まで出かかった所で、ことりと、ズボンのポケットから何かが落ちた。


「……これ、何でしょうか?」


 それは手のひらサイズの〝薄い板〟とでもいえば良いのだろうか? 長方形のそれは、角が丸く整えられていて、片面がガラスのような材質でできている。裏側を見れば、何やら林檎りんごのような刻印? が中央にあり、下部には異国の文字が短く書かれている。


「何かは分からぬが、魔力の痕跡こんせきを感じるな」


 ……これでカルヴァンの気は済んだだろうか?


 私はあさった籠を元に戻して自室へ戻ろうとするが、


「その板はじっくりと調べたい。持って行け」


「……正気ですか?」

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