ミーナと観測者

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 私は顔が火照ほてるのを感じながら、脱衣所で息を整えていた。


 ちょっとした出来心の企みが、まさかこんな結果になるなんて思わなかった。


「しかし、成果がないわけではなかろう?」


 カルヴァンが影の中から言うが、私はその言葉を無視した。


 なぜなら、私には失ったモノしかなかったように思えたからだ。


 しかし、カルヴァンはそんなことはお構いなしで、勝手にしゃべり始める。


「本来、魔術や願いを発動させるには、本人の発動させたいという意志と魔力が必要不可欠だ。しかし、あの小僧は無意識のまま〝メイド服をタオルへ変質させる〟という現象を引き起こしてみせた。……単に演技をしているという可能性もなくはないが、あの小僧がそんな器用なことができる様には思えぬ。つまり、転生者の〝願い〟を超える規模の何かを、あの小僧が持っている可能性があるな」


「そんなのどうでも良いですよっ!!」


 私は乱暴に返事を返し、脱衣所にある新しいタオルに手をかけていた。


 頭は混乱を極めていたけれど、このまま裸でいるわけにはいかない。


 今、この屋敷にはタルサさんとメリッサさんがいる。


 まだ湯船にはシュウさんがいるし、このまま全裸でいるのはあまりにも無警戒すぎると思う。


 私が新たなタオルを体に巻いて廊下へ向かおうとした時、カルヴァンが改めて口を開いた。


「どこへ行くのだ?」


「どこって――早く部屋に戻って服を着るんですよっ!」


 何を聞くのだと憤慨ふんがいする私に、カルヴァンはため息をつく。


「お前はこのチャンスを逃す気か?」


「……ノーチャンスだと思うんですけど?」


「いいか、ミーナよ?」


「……何ですか?」


「小僧は、この世界の物理法則を塗り替える力を持っている可能性がある」


 涙目の私に、カルヴァンは説明を続ける気になったらしい。


 カルヴァンは言葉を選びながら、慎重に話を続けた。


「それほどの力を持つ者であれば、全てを〝知る〟女神がとりこになるのもうなずけるというべきだ。そんな能力者であれば、我々の目的を達成させるための鍵に成り得るかも知れぬ」


 私は立ち止まり、カルヴァンを見つめた。


「でも、私はこれ以上、いったい何を調べればいいんですか?」


「目の前に、小僧の持ち物があるではないか?」

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