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(この小僧には、ミーナの姿が魅力的に見えるよう幻術をかけてある。つまり色仕掛いろじかけだな。性的魅力で雄の思考力を奪い骨抜きにする。雄を手籠てごめにするには最も効率の良い方法だろ?)


 私はそう言われて、自分の姿を見下ろした。


 私はメイド服で背中を洗っているのだが――シュウさんから見て、私の格好は魅力的に見えているらしい。……だからこそ、シュウさんは不自然な動きをしているというわけか。


 納得しつつも、何かが引っかかる。


 実際は幻術だとしても、だ。


 ……その、魅力的な姿というのを、私は見られているということですか?


(そうだな)


 ……そ、それは実際に見られているのと、何が違うんですか?


 思わず手を止めてしまった私に、シュウさんがひかえめに顔を向けた。


「……」


「……っ!」


 目が合うと、シュウさんは顔を染めて正面を向き直した。


「あ、あの、シュウさん?」


「……な、なんですか?」


 私は本来の目的も忘れ、聞かずにはいられなかった。


「私の恰好って、どんな風に見えます?」


「……」


「……」


 その短いながらも重い沈黙が、事態の重大さを物語る。


「その、言いにくいんですけど……ミーナさんって、意外と大胆ですよね?」


「わ、私の恰好って、どうなってるんですかっ!?」


 まさかの全裸だったり――するのだろうか!?


 少し慌てすぎたかもしれない。


 荒げた私の声にシュウさんが振り返った。


 風呂場は湿度が高く、汗をかいているシュウさんの顔が、すぐそこにある。


 少しだけ不可解そうな、でも、覚悟を決めてシュウさんは口を開く。


「は、裸に、タオルを巻いただけの姿に見えます」


 シュウさんの言葉が発せられた瞬間だった。


 気づくと、どこか体が身軽になっており、何故なぜか体がすーすーする。


 違和感を覚えながら、私は改めて自分の体を見下ろしてみた。




 何故か、今の私は――本当に、全裸にタオルを巻いただけの姿になっていた。



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