ミーナとお風呂

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「気持ちいいですか?」


「……は、はい」


 私はシュウさんの背中をごしごしと洗っていた。


 悠久の魔女様は多忙を極めてろくにお風呂に入りたがらなかったけれど、生前は私が無理やりに風呂へと誘っていた。そんなことをずっと続けていたために、人の背中を洗うのはかなり得意になってしまったと思う。


 しかし、こんなことで、本当にシュウさんの秘密を暴くことができるんでしょうか?


(俺様の目に狂いはないから安心しろ)


 私が頭の中で会話をしているのは、影の中に潜んだカルヴァンだ。


 カルヴァンは影に潜んでいる間も、私と五感を共有し、頭の中で会話することができる。


 そもそもこの〝シュウさんの背中を流してふところを探る作戦〟を考えたのはカルヴァンだった。


 風呂場ならタルサさんもいないために、一対一でシュウさんに探りを入れられる。また、万が一にシュウさんに襲われたとして、裸一貫はだかいっかんのシュウさんに対し、私は陰にカルヴァンを宿しているから危険はない。


 思ったよりも練られた作戦だとは思ったが、どこかシュウさんの様子がおかしかった。


 シュウさんはどこか、恥ずかしそうにモジモジとしている。


「痒いところがあれば、おっしゃってくださいね」


「……は、はぃ」


 返事だって消え入りそうなほどに小さい。


 シュウさんは裸だから、それを私に見られて恥ずかしいということは理解できるが、どうして私と目を合わせないようにしていて、私をあまり見ないようにしているのかが謎だ。


(それは俺様が幻術をかけているからだぞ)


「は?」


「え? どうかしました?」


 思わずカルヴァンに言葉を返してしまい、不審がられてしまった。


「は、はは――はっと見張るほどの背中ですね!? やっぱり男の人の背中って筋肉質で、悠久の魔女様とは全然違うなぁって、そ、その、急に声を出してすみませんっ!」


「は、はい……? それなら良いんですけど?」


 シュウさんはまたどこか恥ずかしそうに背中を丸めている。


 ……危ない危ない。


 カルヴァンの言葉はシュウさんには聞こえていないのだから、気を付けなければ。


 私はシュウさんの背中を洗う作業に戻りながら、カルヴァンに問いかける。


 幻術って、何の話ですか?


(くくくく)


 カルヴァンは何故なぜか、機嫌よさそうに笑う。

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