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 カルヴァンの言葉は、私を後押しするには十分だった。


「……私は、何をすればいいのでしょう?」


未来視みらいしも〝全てを知る願い〟も、結局は情報を集めているに過ぎん。俺様とミーナに必要なのは情報ということだ。持っていないのであれば、集めていくしかあるまい」


 カルヴァンにしては、意外と建設的な言葉だと思う。


「意外は余計だ!」


 カルヴァンが口をとがらしていて、私は笑う。


「でも、私は何から知っていけば良いんでしょうか?」


 正直に言うと、私は自分が何も知らないことを知っている。


 家事全般については、この世界でも一、二を競うほどに完遂かんすいできる自信はあるし、悠久の魔女様のお仕事だけは手伝っていたから、それについてもある程度の知識はある。


 しかし、それ以外のことは全て知らないと言っても過言ではない。


 今だって、こんなにも夕食を作って食べきれるかが不安だが、夕食の場で足りなくなってしまうことを考えると、さらに不安を感じるぐらいだった。


 調理後の食材は足が速いから、過不足かぶそくない分量を作ることはメイドとして大切なことだ。


 状況次第で、八百屋やおやのルッチさんにおすそ分けにいかなくてはならないかも知れない。


「……他にも知るべきことがあるだろう?」


 影の中から黒い腕が伸び、カルヴァンが頭をかいていた。


 いまいちピンとこない私に、カルヴァンはため息をついて続ける。


「あのシュウとかいう小僧、何者だ?」


 言われてみれば、確かに気にはなっていた。


 シュウさんの〝願い〟が神ランキング協会からの連絡で〝この世界の歴史を知ること〟だと報告があったが、それを踏まえてもシュウさんはDDの最低ランクだ。昼から続けている剣技の稽古風景から察するに、戦闘タイプでないことも明らかだろう。


 こう言ってはまた失礼になるが、そんなシュウさんに、あれほどの女神が付き従っていることはかなり不自然だと思う。


「つまり、シュウさんは、何か別の力を隠しているということですか?」


「うむ」


 私の考えは、ようやくカルヴァンと合致がっちしたようだった。


「まずはあの小僧が何者なのか、俺様たちは知るべきだ」

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