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ミーナさんと別れ、俺とタルサは荷物を取りに廊下を戻っていた。
「本当にタルサって、人を説得するのが得意だよなぁ?」
「……そう誉めても、胸を揉むぐらいしかできぬぞ?」
タルサが楽しそうに俺の右腕に抱き着いてくる。
タルサの胸が俺の肘に当たり、むにむにと形を変えた。
「……っ!」
「くくくくくくくっ!」
思わず緊張する俺を見て、タルサが馬鹿笑いするのは毎度のことだ。
「
タルサの言いたいことが、いまいち理解できない。
「どういう意味だよ?」
「ミーナ殿は抜けているように見えて、最高のメイドじゃ。悠久の魔女殿が身の回りの世話を全て任せるのも納得の人選であり、
「……そ、そうですか」
タルサが舌なめずりしていて、苦笑いを返すことしかできない。
タルサの言葉は、本気か冗談か分からないのが恐ろしいところだ。
今まではのらりくらりと行為には及んでいなかったが――そろそろ、本気で覚悟を決めたほうがいいんだろうか?
「その、これから、どうする?」
「そうじゃなぁ?」
遠回しに聞いてみると、タルサは小首をかしげた。
「まず、妾はこの世界ではすでに死んだことになっておる。実はロウ殿に無理を言って死亡届も書いて提出しておるし、公的にも悠久の魔女の代わりを務めるのは妾が適任じゃ。妾はこれから顔を隠して、悠久の魔女の
……そういう建設的な話じゃなかったんだけどな。
俺が気落ちしていることに気づかず、タルサは言葉を続ける。
「ミーナ殿にも話したが、まずは優秀な手駒を揃えるのが先決じゃ。このまま手をこまねいて後手に回る前に、できる限りの対策を行う」
タルサの言葉はもっともだ。
「これから忙しくなるぞ? 覚悟はよいか?」
言葉に反して、タルサはとても楽しそうだ。
それを見て、俺もどこかわくわくしている。
俺はタルサが楽しそうなら、それで自分も楽しいのだと、ようやく気付いてしまった。
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