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「……」


「ミーナ殿はそれを知っており、後悔こうかいしておるハズじゃ」


「……」


わらわはそれを間違っておるとは思わぬが――悠久の魔女殿はこの国のために尽力じんりょくし、そのために個人では抱えられる負担をはるかに超えるものを背負い、その結果、ってしまわれた。……さて、悠久の魔女殿がいない今、この国はどうなるじゃろうか?」


 悠久の魔女が、この国のかなめなのは間違いない。


 悠久の魔女によって管理されていたこの国に、悠久の魔女がいなくなったとするなら、それはもう国の崩壊以外にはあり得ないだろう。


「この国を守るためにやるべきことは、大きく分けて二つじゃ」


 タルサは腕を組み、ソファーにふんぞり返る。


「一つ目は、悠久の魔女殿が生きていると全てをだまし、出来る限りの時間を稼ぐこと」


 この理由は分かりやすい。


 悠久の魔女が亡くなっていると気づかれてしまえば、他国の脅威におびやかされる可能性もあれば、そもそも暴動などで国としての秩序ちつじょすら崩壊する可能性もある。この国が平和のままでいられるのは、悠久の魔女が生きていることが前提としている。


「二つ目は、悠久の魔女殿の背負っておった様々な要因を、信用できる配下によって分散する。国の機能を個々の力によって立て直し、悠久の魔女殿がいなくても、この平和を維持できる国へとエターナルを創り直すのじゃ」


 タルサの言葉に、ミーナさんは目を見張った。


「そんなことが――本当に可能なのでしょうか?」


「もちろん無償とは言わぬぞ?」


 タルサが声を立てて笑うと、その豊満な胸が大きく揺れる。


「前払いの報酬として、妾たちをこのお屋敷に住まわせてもらい、食の提供を願いたい。そして、この国が軌道に乗った暁には、妾たちにそれに似合う対価の魔力提供を願いたい」


「客室は有り余っておりますし、それは問題ないのですが……本当にそんな条件でよろしいのですか?」


 タルサはうなずいて、


「ミーナ殿が気に病む必要は皆無じゃ。妾たちは仕事の対価を頂けるのであれば十分じゃよ」


 タルサはニヤリと笑い、言葉を続ける。


「妾たちは転生者でな? 妾たちは魔力を集め、現世に蘇るという目標があるのじゃ。妾たちが現世に蘇るほどの魔力を集める手伝いをして下さるのであれば、その後にこの国がどうなろうが妾たちに興味はなく、むしろ邪魔じゃまともいえる。その暁には全ての権利をミーナ殿に返すと約束しよう。それどころか、他にミーナ殿がやりたいことがあれば、妾も手伝ってやるぞ?」


 タルサのことを、ミーナさんが期待に満ちた瞳で見つめている。


「これから、妾たちは一蓮托生いちれんたくしょうじゃ」

 

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