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「……アレを手に入れるのには苦労したんだぞ? まったく毎度毎度どこから情報を仕入れてくるのか知らねぇけど、それこそ無用むよう長物ちょうぶつじゃねぇのか? この坊主は何者だ?」


 サイクロプスさんが俺を怪訝けげんそうに見つめる中、ヘッドはニヤリと笑った。


「このお方は、未来のSSランカー……ってのは冗談で、悠久の魔女様の客人だ」


「……飲み代もツケで済ませるヘッドらしくねぇと思ったが、そういうことか」


 サイクロプスさんは納得なっとく顔で俺を見つめ「取ってきてやる」と店の奥へ入っていく。


 頭に疑問を浮かべる俺に、ヘッドが笑った。


「悠久の魔女様は、えずたみを見る」


「……それもことわざですか?」


 俺の問いに、ヘッドはうなずいた。


「最初は信者が言い出した言葉に過ぎなかったんだが、今ではこの国を象徴する諺だ。エターナルの民は悠久の魔女様に守られており、いつでも救いの手を差し伸べられているってことさ。エターナルの民は、悠久の魔女様に恩を感じてる奴が大半で、俺もその一人だ。覚えとけ」


 タルサはいつか、この国を選んだ理由のひとつに〝平和だから〟と答えていた。


 他種族同士がこうして平和に暮らす国というのは、稀有けうな例なのかも知れない。


 金貨がどれほどの価値か知らないけれど、それを〝悠久の魔女の客人〟ってだけで出してしまうのは異常な気がする。それだけの恩を、ヘッドは悠久の魔女に感じているってことか?


 ややあって、サイクロプスさんが細長い木箱を抱えて戻ってきた。


 サイクロプスさんはそれをカウンターに置き、ふたを開いて見せる。


 木箱の中には、さやに納められた西洋風の両刃剣が入っていた。


 形だけであれば、先ほど選んだ剣に似ていて、こちらも刃渡りは三十センチほどだろう。


「抜いてみろ」


 俺はその剣を手に取って鞘から抜いた。


 輝く刀身には、何やら細かな文字が刻印されており、つばに当たる部分に小さな水晶が埋め込まれている。


「コイツは魔封じの呪文が刻まれててな? 前もって水晶に魔力を貯め込んでおけば、魔術の心得がなくても〝魔術を斬る〟ことができる剣だ。実際に魔術を断ち切る様を見させてもらったが、見事なモンだったぜ?」


 サイクロプスさんが自慢じまんげに話し、ヘッドが財布を取り出した。


「いい買い物ができたぜ」


 カウンターに金貨が5枚並べられるが、サイクロプスさんが手にしたのは三枚だけだった。


「これで十分だ」


 サイクロプスさんの言葉に、今度はヘッドが眉を寄せた。


「……そんなことして、商売人しょうばいにん失格じゃねぇのか?」


「俺は商売人の前に、エターナルの民だからな」


 サイクロプスさんは笑いながら続ける。


「悠久の魔女様は、絶えず民を見る」


 サイクロプスさんも、それだけ悠久の魔女に恩を感じているらしい。


 俺たちが剣を手にレギウス商会を後にすると、馬車ではタルサとメリッサさんが肩を組んで馬鹿笑いしていた。二人とも人見知りするような性格には見えないが、この短時間で何があったらそこまで仲良くなれるんだ?


 俺とヘッドはいぶかしみながらも馬車に乗り込み、悠久の魔女のお屋敷を目指すことにした。

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