俺とエルフのメイドさん

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 悠久の魔女のお屋敷は、山頂さんちょうの森を切り開いた場所にあった。


 街から離れたところにあるお屋敷は、いかにも魔女の好みそうな立地だと思う反面、君主くんしゅという雰囲気からは遠い。その道中には立派な石畳がかれていたが、検問のようなものは最後までなく、警備にあたるような兵士も見かけない。


「俺たちはここで待ってるから、帰る時に声をかけてくれ」


 ヘッドとメリッサの二人と庭園ていえんで別れ、タルサとお屋敷の前に立つ。


 悠久の魔女のお屋敷は、とても大きな木造の建屋だった。


 これほどのお屋敷なら、使用人だけでも沢山の人がいそうなものだが、聞こえてくるのは周りの森から届く鳥のさえずりぐらいのもので、人の気配はまるでない。仮にも国を治める悠久の魔女がいるのなら、もっと仰々ぎょうぎょうしい護衛がつくべきじゃないだろうか?


「平和な国って言っても、無防備すぎないか?」


「悠久の魔女の実力は計り知れぬからのぅ」


 タルサは不敵に笑い、言葉を続ける。


「悠久の魔女の魔術は、未来視みらいしと言われておる」


「未来視? 未来がえるってことか?」


 タルサは俺の問いにうなずく。


「未来が視えるというのはすなわち、全ての結果を自らの望むモノへとげられるということじゃ。そんな相手に勝つことなど転生者であっても不可能で、エターナルが他国に襲われず、その権利が認められておるのは、その君主が悠久の魔女だからこそ、という訳じゃ」


 悠久の魔女の力は、俺が考えているよりもはるかかに強力らしい。


 後出しじゃんけんに勝てる者がいないように、確かにその力があれば、護衛もいらないだろうし、平和な国も創れるだろう。


 悠久の魔女に、タルサが一目いちもくくのも納得だ。


「そんな人と協力できたら……あの黒い腕も、なんとかできそうだな」


「そう単純な話なら良かったのじゃが――それよりも、お主様よ?」


「……なんだよ?」


「これから、わらわはこの国を取るぞ?」


「へ?」


 眉を寄せる俺の前で、お屋敷の扉が内側から開かれる。


「お待たせしましたっ!」


 大きな玄関から現れたのは、黒と白が基調のメイド服に身を包んだエルフの女性だった。


 神ランキング協会で出会ったコメットさんも美人だったが、彼女もそれに負けず劣らず整った顔立ちだ。瞳が大きくくりくりとしていて、にっこりとした笑顔は人懐ひとなつっこく素直な性格を表しており、コメットさんとは別方向の美人だったけれど、エルフという種族は、やはりみなが美しい外見を持っているのだろうか?


 彼女は黒の短髪から細長い耳をピンと立て、俺とタルサにまっすぐお辞儀じぎをして見せた。


「私は悠久の魔女様のメイドをしているミーナと申します! 以後お見知りおきを!」

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