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 例え話っぽいが、いまいち意味が分からない。


「〝宝石商のなまくら使い〟って、どういう意味です?」


 俺の言葉にサイクロプスさんは笑う。


「坊主は旅人か? こいつはエターナルのことわざでよ? 高価な積み荷を守る旅路たびじには用心棒を雇うのがつねなんだが、その時に安価な用心棒を雇うと、役立たずでむしろ高くつくって意味だ。なかなか面白いだろ?」


 サイクロプスさんの言葉は、短いながらも分かりやすい。


 考えてみれば、俺みたいな初心者が高価な剣を持ったところで盗人ぬすっと餌食えじきだろう。むしろ、俺が高価なモノを身に着けていたら、それ自体が襲われる原因になりそうだ。


「つまり、無用むよう長物ちょうぶつってことですよね?」


「むしろ、それはどういう意味だ?」


「ああ、これは俺の母国ぼこくの諺で――」


 無用の長物とは、長すぎてむしろ邪魔じゃまになるという意味から、立派であることがむしろ無駄になるという意味だ。俺の説明を神妙しんみょうな顔で聞いていたサイクロプスさんは「槍が通路じゃ使いにくいみたいな話か」とうなずきながら納得していた。


「おいシュウ、これ、握ってみな?」


 俺たちが話している間に、ヘッドは剣を見繕みつくろってくれたらしい。


 ヘッドが手に持つのは、いかにも〝使い古されました〟という感じの中古らしき剣。


 刃渡りは三十センチほどで短剣の部類に見えるが、護身用ならば十分だろう。


 俺はそのを握り、その吸い付くような感覚に驚いた。


「そいつは重心がズレてなくて素直だし、持ち手が馴染む」


 確かに、ヘッドの言うとおりだと思う。


 見た目は地味だが、素人しろうとでもわかる、良い剣だ。


 刃渡りの短さが少し気になるが、そもそも剣なんて鉄のかたまりで、それなりの重さがある。素人の俺でも振り回すとなればこの長さが限界で、それこそ無理をすれば無用の長物になりそうだ。


「この剣、気に入りました」


 俺の言葉にヘッドは親指を立ててこたえ、サイクロプスさんに向き直る。


「そんじゃコイツと、もう一本、この店で最高の剣を頼む」


「今度は何の冗談だ?」


 サイクロプスさんにそう言われ、ヘッドは笑みを消した。


「冗談じゃねぇさ。コイツは護身用で、本命は別ってだけだ」


 サイクロプスさんは眉を寄せつつ、声のトーンを一つ落とす。


「……予算は?」


「金貨五枚」


「あぁ!? そんな大金で剣を買おうってなると――お前っ!?」


「三日前に〝異国の魔剣〟を入荷したんだろ? それをシュウに持たせたい」


 あごでしゃくりながら俺のことを示すヘッドを前に、サイクロプスさんは顔を手でおおった。

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