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「これは独り言なのじゃが、わらわはシュウ様に何か武器が欲しいと考えておる」


 タルサは車窓に視線を向け、流れる景色を見つめながら続ける。


「そういえば、この先を右に曲がれば腕利きの武器屋があったハズじゃな? ああ、どこかにシュウ様の扱いやすい剣を見繕みつくろってくださるA級の神様はおらんもんかのぅ?」


 真剣な表情をしていた狼男さんが、吹き出すように笑った。


 狼男さんは「了解だ」と口にして窓を開く。


「メリッサ、行先変更だ! レギウス商会に寄ってくれ!」


「はいよっ!」


 メリッサさんは馬車馬を見事に操っている。


 狼男さんは窓を閉めると「剣でいいのか?」と俺に聞いてきた。


 俺はその言葉をありがたいと思いつつも、申し訳なく思って口を開く。


「……おどすような形ですみません」


 俺が頭を下げると、それに対しても狼男さんは笑った。


「気にしなくていいぜ? むしろ俺は、もっとデカいモンを要求されると思ってたぐらいだ」


「……そうなんですか?」


たいを表すとも言うじゃろ?」


 俺の疑問に、タルサも笑う。


「妾たちのような転生者は、その名が知られるだけで致命傷になることもある。この世界の転生者の中には〝願い〟を発動させるために名前が必要な者だっておるし――儀式の契約に真名まなは必要不可欠であり、この国では、さらに特別な意味を持つ」


 特別な意味、という言葉は理解できなかったが、願いの話はよくわかる。


 例えば、俺のパソコンやスマホで特定の人物を調べる場合、その人物の名前を入力することで効率が上がる。それにぼう漫画のように〝名前を書いた相手を殺すノートを持つ〟転生者がいたとしたら、名前の価値というのは果てしないほど大きくなるだろう。


「言い方を変えれば、妾はそれだけヘッド殿を評価しておるということじゃ」


「そいつは嬉しい言葉だ。……それなりの持ち合わせも準備した甲斐かいがあるってもんよ」


「くくく。妾が気に入っておるのは、そういうところじゃよ」


 狼男さん――もといヘッドを、タルサは指さす。


「ヘッド殿は妾が〝知っている〟ことに気づき、その価値にも気づいておる。それはこの国において限られた強者の証拠じゃ。……ヘッド殿は妾を信用しすぎじゃとは思うがな?」


 タルサはまた値踏みするように見つめるが、ヘッドはやれやれと首を振る。


「俺にはタルサさんを信用する根拠があるぜ?」


 タルサは改めて腕を組み、足を組み替えながら口を開く。


「その根拠とやらを、是非ぜひとも聞きたいのぅ?」


「理由は三つだ」


「ほう?」


 ヘッドは指を一つ立てた。

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