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「一つめの理由は、タルサさんが今まで――おどすように見せかけて、双方に利益をもたらしていることだ。俺は顔が広くて情報屋まがいの仕事もしてるんだが、ロウの野郎やグラトニス兵長からもタルサさんの話は聞いてる。ちなみにロウと俺はマブダチでな? ロウの恋を後押ししてくれたのは俺としても感謝してるぐらいだぜ?」


 リザードマンで医者のロウは、確かに幸せになれそうだけれど、


「……グラトニス兵長は、困っていたんじゃないですか?」


 グラトニス兵長は、国境でタルサに脅されて入国審査を免除めんじょさせられた獣人だ。あのタルサの脅すような言動で考えるなら、グラトニス兵長に得なんて無かったように思える。


「いや、それが違うんだ」


 ヘッドは手を横に振って、


「あれから三日後に大規模な監査があったらしくてよ? タルサさんに指摘してもらったお陰で――グラトニス兵長は、その情報漏れを隠すようにあらかじめ工作できたらしい。その結果、グラトニス兵長は無事になんを逃れたってわけだ」


 ヘッドの言葉に納得しながらも、そこまで調べ上げる情報網もすごいと思う。


 ちらりとタルサを見れば、タルサはタルサで満足そうな表情だ。


 その顔を見ながら、不意に思う。


 凄さで言えば、やはりタルサの方が上かも知れない。


 自分の利益だけでなく、タルサは常にその先で、誰からも恨まれないように行動していたのだろうか?


「二つ目の理由は、お前たちが嘘をついてないってこと」


 ヘッドは中指を立てて続ける。


「隠しても仕方ねぇから白状するが、俺の転生者としての願いは〝嘘を見破る〟力だ。お前たちはこうして俺と会話を続けても全く嘘がねぇし、お前たちなら、もっとエグイ方法をいくらでも取れる実力があるハズだが――そうする様子もない」


「くくくく。それが買いかぶりじゃとわらわは言うておるのじゃがのぅ?」


「そこで、三つ目の理由だ」


 ヘッドは薬指を立て、


「俺はそもそも、タルサさんを信用していない」


「……ほぅ?」


「俺が信用してるのはコッチだ」


 ヘッドはこちらに向かってあごをしゃくった。


「……俺?」


「タルサさんはシュウにぞっこんで、それこそシュウのためなら死んでもいいとすら考えてやがる。そんなシュウは超の付くお人好しで――シュウの嫌がることをタルサさんは絶対にしない。それなら、タルサさんは〝信用に値する相手〟に成り得るだろ?」


 ヘッドの答えに、タルサが笑った。


「お主様よ?」


 タルサは、改めて俺を見つめ、まっすぐに口を開いた。


「妾ははたから見ても、お主様を愛しておるらしいぞ?」


 上目うわめづかいのタルサを見て、俺は顔が真っ赤になった。


 あれだけの会話をしておいて、こんな着地点だとは思わなかった。


「お前ら……どこまで計算づくなんだよっ!?」


 俺の言葉に、二人が馬鹿笑いする。


 やっぱり、タルサは敵にしてはいけない相手だと思った。

 

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