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「遅くなって悪いんだが、俺の名はウルフ・ヘッドだ」


 馬車で対面するように座り、狼男さんが自己紹介をしてくれた。


「これでもA級の神をやってる。あと自己紹介するなら、神ランキング協会――エターナル支部の飲んべぇ共の総元締そうもとじめだ。ヘッドって気さくに呼んでくれ」


 狼男さんは只者ただものではないと思っていたが、まさかA級の神だとは思わなかった。


 正直なところA級の神っていうのがどれくらい凄いのかが分からないけれど、DD級の俺より遥かに実力があることは間違いないだろう。……気さくに話しかけてくれているけれど、神様の集うあの場所の〝総元締め〟という肩書きも凄そうだと思った。


 ちなみに〝エターナル〟というのは悠久の魔女が名付けた、この国の名だ。


「俺はシュウって名前で、DD級の神です。よろしくお願いします」


 俺は狼男さんと握手を交わすが、タルサは腕と足を組んでふんぞり返っている。


「ウルフ・ヘッド――狼の頭、のぅ?」


 タルサはニヤリと笑う。


「分かりやすい偽名じゃな?」


「……偽名?」


 俺のオウム返しの疑問に、狼男さんは薄く笑う。


「なかなか手厳しいな。流石さすがは元SSランカーってところか?」


 狼男さんは頭をかいて続ける。


「お屋敷に着く前に確認しときたいんだが、タルサさんの願いが〝全てを知ることができる〟ってのは本当らしいな? 俺の真名まなは確かに〝ウルフ・ヘッド〟じゃないが、この国に来てからは〝ウルフ・ヘッド〟として生きてるし、その事実を知ってるのはメリッサだけだ」


「妾はその全てを知っておるぞ? 何が言いたい?」


 タルサが目を細め、狼男さんの言葉を促した。


 狼男さんは少し考え、言葉を選びながら続ける。


「取り繕っても仕方ねぇから単刀直入に言うが、俺が偽名ということは隠してくれないか?」


 狼男さんを見返しながら、タルサはニヤリと笑った。


わらわは口が堅いゆえに安心せよ。――ヘッド殿?」


 狼男さんはほっと息を吐くが、タルサの言葉は終わらなかった。

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