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 少女だって自らの腕が切り落とされたのに、平然としている。


「コロナさんの願いは〝解放〟だよ? 死から解放されたんだよね?」


 コロナは少女をにらみ、新たなランスを生み出す。


「――なるほど! ――不死身なら俺に勝てると思ったわけか! ――これは傑作けっさくだ!」


「……あなたは主人がいなければ存在できない寄生虫だ。そこで貼り付けにされたまま、新たな主人の死に様を見ていてください」


 コロナが少女へ向かってランスを突き出す――が、それは別のランスにはじかれてしまった。


 いつの間にか、少女を守るように、路地には新たな三人の天使が現れていた。


 三人はそれぞれ背格好が違うものの、コロナと同じ甲冑かっちゅうを着込んでいる。


 天使の一人は少女を抱き上げて空へ飛びあがり、残りの二人がコロナにランスを向ける。


「――ひひひひひひひ」


 対峙する天使たちとコロナを見比べて、黒い腕はまた笑い声をあげていた。


「――俺が一人で行動しているとでも思ったのか? ――護衛ならいててるほどいる! ――裏切り者は殺されてしまえ!」


「あなたが護衛を連れていることは想定内です。そして、あなたはそれを私のピンチだと思っているのかも知れませんが、それは大きな間違いですよ」


「――ひひひひひひ」


「この三人を、あなたから解放します」


 コロナの宣言を受けた三人の天使はびくりと震えたが、その姿に違いは見られない。


「これで、あなたの味方は誰もいない。後は私と彼らで、あなたを今度こそ倒――」


 しかし、コロナの言葉は最後まで続かなかった。


 コロナの体を、解放したはずの二人の天使がランスで突き刺していた。


「馬鹿な……っ!」


 血を吐き倒れこむコロナに、甲冑の天使が口を開く。


「僕達は、自らの意志で王に仕えている」


 コロナは傷ついた腕と足で立ち上がろうとするが、上手くいかない。


「なぜ、君たちは王の味方を?」


 俺もコロナと同じように驚いていたが、そこに納得もしていた。


 タルサは、こうなることを知っていたんだ。


「――冥土めいど土産みやげに、俺が教えてやるよ?」


 ニタリと笑う黒い腕は、言葉を続ける。


「――こいつ等は自分の意志で俺の下僕げぼくとなることを選んでいる。――いや、そうせざるにはいられないのさ! ――なぜなら、こいつ等は現世に家族を残しているからなぁ? ――こいつ等など、俺のために仕えるしか道はねぇんだよっ!!」


「私は、負けな――」


「もう、眠ってくれ」

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