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 俺はノートパソコンに向かって唖然あぜんとしていた。


「俺なんかのために――タルサが死ぬ?」


 俺のつぶやきが消える頃、




「それはタルサお姉ちゃんが、あなたを愛しているからだよ?」




 返事があるなんて思ってもみなかった。


 驚いて声の方――部屋の扉へ視線を向けると、つぶらな瞳で俺を見つめる黒髪の少女がいた。


 いつの間に俺の部屋に入ったのだろうと思いつつも、その栄養失調えいようしっちょう気味ぎみの体つきと、素肌にボロの布を巻いたような恰好を見て気づく。


 こいつは、あの黒い腕の宿主だ。


「私は、あなたが知るのを待っていたの」


「……どうしてだ?」


 俺の疑問に、少女はにこにこしながら答える。


「それは単に、私があなたの居場所を見つけるために必要な要素だったからよ? 私の可愛い天使の中に、願いを探知できる子がいるの。私は異世界の創造神であり、タルサお姉ちゃんが愛した人であり、パパの最大の難関だという人を、この目で見たかったってわけ」


「……パパっていうのは、あの黒い腕のことか?」


 少女はうなずき、続ける。


「パパはあの取引の力で、あなたに手を出せないから安心してね」


 こいつ、何が目的だ?


「タルサお姉ちゃんは、もうすぐ死ぬわ」


「……タルサは、まだ生きてるのか?」


 思わず口を開くと、少女は改めて笑う。


「タルサお姉ちゃんは、パパの〝取引〟の願いによって死を受け入れたの。それは他の〝願いの力〟でしか上書きできない正真しょうしん正銘しょうめいの呪いよ。でも、その取引を無効にする方法が二つある」


 くすくすと笑う少女に、俺は眉を寄せる。


「何が言いたいんだよ!?」


 無警戒に会話をしているが、これが危険な状況なのは間違いない。


 俺は、どうするのが正解だ?


「私は、タルサお姉ちゃんを助けたいの」


 敵の総大将の片割れが――俺に協力してくれるっていうのか?

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