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 質問を投げかけるタルサメシアに、少女はにこりと笑う。


「弱いというのは、それだけで罪なの」


 少女の無垢むくな瞳が、それを本心から語っているのだと伝えてくる。


 黒い腕が、新たな体を手懐てなずけたというわけじゃな。


「弱き者には決定権がないかも知れぬ。じゃが、強き者が全てを奪う必要もなかろう?」


 初めて出会った価値観に目をぱちくりさせる少女だが、


「――余計な口を出すな!」


 黒い腕が、苛立ち混じりに口を挟む。


「――俺の邪魔じゃまをするなら、お前にも弱さを自覚させてやるぞ?」


わらわは最初から、弱い人間じゃよ」


「なら、あなたは何しに来たの?」


 少女が小首をかしげて聞いてくる。


 タルサメシアはニヤリと笑って、


「お主の願いによる取引がしたい」


「――俺と取引だと?」


「妾の命をやる。その代わり、シュウ様には手を出すな」


「――なるほどなぁ? ――俺を倒すことはできないと判断したか。――俺の願いまでも利用して必ず成立させるというのか。――俺に取引をもちかける奴がいるとは驚きだ。――命を対価にすることで、違反した場合には俺の命を奪うというわけか!」


「妾は〝知る〟力を持つ。この異世界でも最強の魔法使いの一人じゃ。妾の命を対価とするならば、無能力者であるシュウ様を生かすことなぞ造作もない。違うか?」


 思考をめぐらしているのか、黒い腕は押し黙り、少女は眉を寄せていた。


「そんなことをしても、あなたは死んでしまうんだよ?」


 少女の言葉に、タルサメシアは笑って答える。


「愛する者のために死ぬのであれば、妾は本望じゃ」


「――取引成立だ」


 黒い腕の口が続ける。


「――タルサメシアの命と引き換えに、俺はやなぎシュウに手をかけない」


「妾の命をかてにするのじゃ、それに見合う取引をしてもらおうかの?」


「――柳シュウに悪意を向けた場合、俺は死ぬ」


「その内容で構わぬ。取引成立じゃ」


「――では、貴様の命を差し出してもらおう」


 タルサメシアは黒い腕との取引成立のため、死の呪いを受けた。

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