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 やなぎシュウと別れた後、タルサメシアは大空を飛んでいた。


 巨大な積乱雲せきらんうんを横目に、風を切って上空を進み続ける。


 すでに国境を三つも超えた。たとえタルサメシアが〝知る力〟を使わずとも、すでに黒い腕の魔力を感知できる距離にいる。


 隠れもせずに突き進むタルサメシアの魔力に、あの黒い腕も気付いているだろう。


 三つの魔力が向かってくることに気づき、タルサメシアは中空に立ち止まる。


 タルサメシアの前に現れたのは、三体の天使だった。


 以前に戦ったコロナと同じように、天使たちは甲冑かっちゅうを着込んでかぶとかぶっている。体格から見るに男二人と女一人のパーティで、三人ともが背中から生えた翼で空を飛んでいた。


 兜により表情は読み取れないが、天使達はタルサメシアに向かってランスを向けている。


「遊んでやっても良いが、お主たちなど足止めにもならんぞ?」


 タルサメシアがニヤリと笑うと、天使の一人が口を開いた。


「王は今後にかかわる重要な戦の渦中にいらっしゃいます。お待ちいただきたい」


 はる眼下がんか――地上の街で、火の手が上がっていた。


 こうしている間にも逃げまどう人々の悲鳴がひとつずつ失われていく。


 その中心で、笑い声を上げながら村人を処刑していく少女がいる。


「あれが戦とは笑わせる。あれはただの蹂躙じゅうりんじゃろ?」


「それも違うよ」


 天使とタルサの間に黒いもやが集まり、それが質量をまとった頃には少女の姿に変わっていた。


蹂躙じゅうりんではなく、神罰だよ?」


 歳はまだ十歳前後。ろくな食事も与えられていなかった少女の頬はこけ、ボロ布をまとうその華奢な肢体したいせ細っている。少女は黒く長い髪を風になびかせ、上空に浮いていた。


 少女は移動用の魔術でここまで転移してきたらしい。


 町の中心からここまで時差なく移動できるらしいが、魔力の無駄じゃな。


「――罪はつぐなわらなければならない。――久しぶりだなぁ? ――何しにここへ来た?」


 少女の腕がタルサメシアへ喋りかけてきている。


 少女の右腕は黒く染まり、その腕には口が無数に生えていた。


「あの街の者が、どのような罪を犯したというのじゃ?」

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